イーストウッドという反体制アイコンが、強力な重石となったサスペンス映画
それまでの刑事ドラマのイメージを刷新し、ダーティー・ヒーローものの嚆矢となった革命的作品『ダーティハリー』(1971年)。
この主演クリント・イーストウッド、監督ドン・シーゲルの「モスト・デンジャラス・コンビ」が再びタッグを組んで、脱獄モノに挑戦したサスペンス映画が、この『アルカトラズからの脱出』(1979年)である。
何だかものすごい昔にTVでこれを観た記憶があって、えらく面白かったのを覚えている。で、久しぶりに観返してみた訳ですが、期待に違わず面白かったです。
抑制が効きすぎたリアリズム描写は、ややもすれば映画のテンポを鈍重なものにしてしまっているきらいはあるが、ソリッドな緊張感は常時キープ。
体制側(看守)と反体制側(囚人)という分かりすい構図のために、気を許すとアメリカンニューシネマみたいなノリになってしまいそうだが、冷酷な刑務所長への仕打ちに怒りを露わにするなどの幾つかの例外シーンを除けば、物語は「いかにこの堅牢な牢獄から脱出するか」というHOW TOの描写に力点が置かれている。
イーストウッド演じるフランク・モーリスの出自を何一つ明らかにせず、人間ドラマ描写を意図的に放棄することによって、サスペンスドラマとしての比率を上げているのだ。
しかしこれはイーストウッドが主演だからこそ可能な、アクロバティックな手法なのだと思う。内面を描かないということは、主人公に感情移入できない訳で、そして感情移入できないということはサスペンスが効果的に機能しない訳で、要は全然ハラハラドキドキしない可能性を秘めているのである。
イーストウッドという反体制のアイコン的存在が、強力な重石となって、初めてこの映画をサスペンス映画たらしめているのだ。
ちなみにこの作品、銀行強盗で収監されたフランク・モリスなる人物が、1962年6月11日にアルカトラズから脱出したという、実際の脱獄劇が下敷きになっている。
FBIはサンフランシスコ湾で溺死したと断定したものの、未だに死体は発見されておらず。アダム・サヴェッジ&ジェイミー・ハイネマンによるオーストラリアのおバカ番組『Myth Busters』で、手製のイカダでサンフランシスコ湾を渡れる事を証明したとのことだが、何せおバカ番組なもんで、どこまで信用していいものやら。
- 原題/Escape From Alcatraz
- 製作年/1979年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/108分
- 監督/ドン・シーゲル
- 製作/ドン・シーゲル
- 製作総指揮/ロバート・デイリー
- 原作/J・キャンベル・ブルース
- 脚本/リチャード・タッグル
- 撮影/ブルース・サーティーズ
- 音楽/ジェリー・フィールディング
- 美術/アレン・スミス
- 編集/フェリス・ウェブスター
- クリント・イーストウッド
- パトリック・マクグーハン
- ロバーツ・ブロッサ
- ジャック・チボー
- フレッド・ウォード
- ポール・ベンジャミン
- ラリー・ハンキン
- ブルース・M・フィッシャー
- フランク・ロンチオ
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