古き良きアメリカ映画の記憶をSF的意匠でアップデート
想像に反して『リアル・スティール』(2011年)は、古き良きアメリカ映画の匂いを放つ、オールド・スクールな作品であった。リチャード・マシスンによる原作『四角い墓場』が1956年発表だからか?
時代設定は2020年の近未来。フルCGを活用したロボット・ボクシングが物語の山場なれど、かつてのアメリカ映画の「お約束」が幾十にもはりめぐされた結果、どこか既視感を覚える仕上がりになっているんである。
『リアル・スティール』の構造は、’70年代以降のアメリカ映画を体現(かつ破壊)した男、クリント・イーストウッドのフィルモグラフィーに重ねることもできるだろう。
アメリカ西部を舞台に繰り広げられるロードムービー的風情は『ブロンコ・ビリー』だし、ダメ親父とその息子の交流というモチーフは『センチメンタル・アドベンチャー』。ボクサー稼業で一攫千金をはからんとするプロットは『ミリオンダラー・ベイビー』だ。
無名ロボットのATOMがチャンピオン・ロボットのゼウスに対決を挑む、という図式はまんま『ロッキー』(1976年)に当てはめることもできる。
倒れても倒れても立ち上がるATOMの姿は、どうしたってロッキー・バルボアと重ね合わせてしまうし、試合後にチャーリー・ケントン(ヒュー・ジャックマン)が恋人のベイリー(エヴァンジェリン・リリー)と抱き合うシーンには、「エイドリア~ン!!」という絶叫が脳内再生されてしまう。
貧乏親子が金持ちに勝負を挑む、という構図はむしろ『あしたのジョー』における丹下段平&矢吹丈に近いかもしれない。オルガ・フォンダ演じる生意気お嬢さんファラも、どっか白木葉子っぽい。
天才ロボット・ボクシング・プログラマーのタク・マシド(カール・ユーン)は、さしずめ力石徹か?『リアル・スティール』の続編が製作される暁には、微妙な三角関係になったりして。・・・閑話休題。
とにもかくにも、古き良きアメリカ映画の記憶をぞんぶんに投入、どっかで見たような場面とどっかで聞いたようなセリフを、SF的意匠でアップデートする、という戦略は新味はないものの鉄板の安定度。
しかもこの映画が巧妙なのは、ATOMに複合的な役割を与えていることにある。父の愛を知らないまま育ったマックス(ダコタ・ゴヨ)にとってATOMは代理父であり、才能あふれるボクサーでありながら、栄光の座には辿り着けなかったチャーリーにとって、ATOMは再びボクサーとしての誇りを甦えらせてくれる存在だ。それぞれのキャラクターの生き様を反映するものとして、ATOMは存在しているんである。
おそらく製作側の意図的な判断だと思われるが、なぜ旧世代ロボットのATOMが“特別”な存在なのか、その合理的説明はいっさいない。
シャドー機能+音声認識機能ゆえに強いのではなく、スパークリング用ロボットとして開発されたために打たれ強いのではなく、何だかよく分からないけど、スーパーナチュラルな理由によって強いんである。
双頭ロボットツインシティーズの試合前に、ATOMが鏡越しに自分自身を見つめるシーンは実に暗示的だ。それはアイデンティティーレスな存在であるはずのロボットが、チャーリー&マックスの熱い想いによって、自意識を持ち得た瞬間だったのか?
だが、映画は何の説明もしないまま、終幕を迎える。あえてATOMを多様な読みを抱かせる存在に仕立てたことによって、比喩性を高めさせているのだ。
日本人なら誰しも、メイド・イン・ジャパンの最先端型ロボットノイジーボーイに刻まれた「超悪男子」に総ツッコミを入れたことだろう。
「アメリカ的なるもの」=「ボクシングの世界」に、「異端なるもの」=「アキバ系電子立国としての日本」が混入される、という図式もまたかつてのアメリカ映画っぽい。徹頭徹尾、オールドスクールな手触りにこだわったスタッフの姿勢は大きく評価していいんでないか。
余談ですが、題材とビジュアル・センス的にてっきりマックGが監督したのかと思ってたら、コレ『ナイト ミュージアム』(2006年)のショーン・レヴィだったんですね。
まあ確かにマックGだったら、ムダに巨乳ギャルがバイクにまたがるシーンとかインサートされていたんだろうけど。
- 原題/Real Steel
- 製作年/2011年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/127分
- 監督/ショーン・レヴィ
- 製作/ドン・マーフィ、スーザン・モントフォード
製作総指揮ジャック・ラプケ、ロバート・ゼメキス、スティーヴ・スターキー、スティーヴン・スピルバーグ、ジョシュ・マクラグレン、メアリー・マクラグレン - 原作/リチャード・マシスン
- 原案/ダン・ギルロイ、ジェレミー・レヴェン
- 脚本/ジョン・ゲイティンズ
- 撮影/マウロ・フィオーレ
- 音楽/ダニー・エルフマン
- ヒュー・ジャックマン
- ダコタ・ゴヨ
- エヴァンジェリン・リリー
- アンソニー・マッキー
- ケヴィン・デュランド
- カール・ユーン
- オルガ・フォンダ
- ホープ・デイヴィス
- ジェームズ・レブホーン
- ジョン・ゲイティンズ
- グレゴリー・シムズ
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