『リアル・スティール』(2011年/ショーン・レヴィ)
テーマと意味をネタバレ考察・あらすじ・批評・レビュー
『リアル・スティール』(原題:Real Steel/2011年)は、リチャード・マシスン原作の短編を映画化したSFドラマ。衰退した人間ボクシングの代わりにロボット同士が殴り合う近未来を舞台に、かつてのプロボクサーであるチャーリーと、疎遠だった息子マックスの父子が、一体の旧型ロボット〈アトム〉を通じて絆を結び直していく物語だ。過酷な競技世界での挑戦と家族再生のドラマが重なり、80年代父性映画の感触を現代的にアップデート。古典的モチーフと最新VFXが共鳴し、アトムの成長物語が父子の変化を映し返す異色の感動作となっている。
極熱のオールドスクール魂
ショーン・レヴィ監督の『リアル・スティール』(2011年)は、決して子供向けのロボット格闘SFなんかじゃない。
その正体は、ハリウッドが脈々と受け継いできた「父と子の絆」と「負け犬の再起」を、最新鋭のVFXという名の鋼鉄の装甲でブ厚くコーティングした、極めて泥臭く暴力的なオールドスクール・スポーツ映画だ。
物語の舞台はロボット格闘技が熱狂を集める近未来。借金まみれでクズ同然の元ボクサー、チャーリー・ケントンを演じるヒュー・ジャックマンのヤサグレっぷりと筋肉美が最高だ。
そこに突然、存在すら忘れていた息子マックスが現れ、スクラップ同然の旧式ロボットATOMと共にどん底から這い上がっていく。この王道すぎるあらすじを聞いただけで、映画ファンの血はマグマのように沸騰するはず。
そもそも本作の源流は、SF界のレジェンドであるリチャード・マシスンが発表した古典的短編小説までさかのぼる。冷戦下の労働機械化に対する不安や、人間とテクノロジーの境界線を描いたテーマを、製作費1億1000万ドルという巨額の資本を突っ込んで21世紀のエンターテインメントへと蘇らせた心意気が素晴らしい。
画面を覆い尽くすのはピカピカで無機質な未来都市ではなく、油と汗と埃にまみれたアメリカの中西部的な原風景である。『ロッキー』(1976年)や『クレイマー、クレイマー』(1979年)といった名作たちが放っていた強烈な熱気や家族の葛藤と全く同じ匂いが、この映画からはムンムンと漂ってくるではないか。
最新のCGテクノロジーをこれでもかと駆使しながらも、そのコアに流れているのは半世紀以上前の古き良きアメリカ映画の魂なのだ。観客はスクリーンに映る鋼鉄の激突に熱狂しながら、同時にかつて愛した古典映画の記憶を無意識に呼び起こされ、知らず知らずのうちに涙腺を崩壊させられてしまう。
最新技術を使って「懐かしさ」という強烈なパンチを叩き込んでくる、全くもって卑怯なまでの完成度である!
狂気のシミュルカム技術
特筆すべきは、ロボットたちに「魂」を吹き込んだ狂気の技術力と変態的なリサーチ。レヴィ監督は特殊効果のプロ集団レガシー・エフェクツを召喚し、実際に全長2メートルを超える実物大のアニマトロニクス(機械仕掛けの造形物)を現場に建造してしまったのだ!
ガキンッ!ドスッ!という鼓膜を破るような金属音と、土埃を巻き上げてリングに立つ巨大な鋼鉄の塊。そこにはCGでは絶対に誤魔化せない圧倒的な質量と実在感がある。
役者たちは虚無に向かって演技をするのではなく、実際に目の前に立つ巨大なロボットと対峙し、触れ合うことで、あの生々しい感情を引き出されたのだ。さらに格闘アクションシーンでは、伝説のボクサーであるシュガー・レイ・レナードをアドバイザーに招聘するという念の入れようだ。
本物のボクシングの足運びやパンチの重みをプロの動きからモーションキャプチャーで取り込み、ジェームズ・キャメロンが『アバター』(2009年)で開発したシミュルカム技術(CGキャラを現実のカメラ映像にリアルタイムで合成して確認できるシステム)を用いて撮影している。
この執念によって、ATOMが放つアッパーカットには人間の拳が持つ泥臭い殺気と痛みが確実に宿っているのだ。単なるデータの塊ではない。廃棄場から拾い上げられたATOMの虚ろな青い瞳の奥に、我々は確かに意志を見る。
スパーリング用という過酷な設定ゆえに、ひたすら殴られ、ボロボロになりながらも不気味なほど立ち上がり続けるその姿は、自意識に目覚めたゴーレムのようでもあり、同時に何も持たない父と子の切実な祈りが受肉した神話的な美しさすら帯びているではないか!
日米カルチャーの激突
そして本作の白熱したリングには、日米のポップカルチャーが正面衝突する強烈なカオスが渦巻いている!日本の観客にとって絶対にスクリーンで見逃せないのが、劇中に登場する日本製ロボット「ノイジーボーイ」の存在だ。
「超悪男子」という絶妙にダサい漢字のネオンサインを全身にビカビカと光らせたその姿は、欧米から見た偏ったサイバーパンク・ジャパンのカリカチュアそのものであり、初見では思わず失笑してしまうかもしれない。
だが、それこそが本作の巧妙な隠し味なのだ。「無骨な人間の代替品」としてロボットを描写するアメリカ的価値観のなかに、「ハイテク電子立国の異物」としての日本的要素をブチ込むことで、SF映画としての世界観に圧倒的な奥行きを持たせている。
さらに言えば、金もコネもないスラムの貧乏親子が、型遅れのポンコツロボットと共に絶対王者である巨大企業に喧嘩を売るという胸熱な構図は、我々日本人が愛してやまないスポ根の魂そのものだ。
セコンドで吠えるチャーリーは完全に丹下段平であり、傷だらけのATOMを信じるマックスは矢吹丈だ。本作はアメリカ映画の王道を突き進みながら、日本の熱血DNAすらも内包したハイブリッドな奇跡の産物なのである。
クライマックスの最終決戦、無敵の王者ゼウスに対し、シャドー機能を使ってリングサイドからATOMの動きを完全にシンクロさせて操るチャーリーの姿に、世界中の観客が拳を握りしめ、涙を流したはず。
父と子が心を通わせ、過去の栄光と決別して自らの手で未来を掴み取ろうとするその瞬間、暴力的な格闘技は単なる見世物から崇高な家族の儀式へと昇華される。
マックGのような派手な爆発や無意味なセクシーショットだけを追求する監督なら絶対に撮れなかったであろう、極めて繊細で不器用な愛の修復劇。『リアル・スティール』は、人間の最も泥臭く美しい感情をストレートの剛腕で描き切った作品なのだ。
- 監督/ショーン・レヴィ
- 脚本/ジョン・ゲイティンズ
- 製作/ドン・マーフィ、スーザン・モントフォード
- 製作総指揮/ジャック・ラプケ、ロバート・ゼメキス、スティーヴ・スターキー、スティーヴン・スピルバーグ、ジョシュ・マクラグレン、メアリー・マクラグレン
- 原作/リチャード・マシスン
- 撮影/マウロ・フィオーレ
- 音楽/ダニー・エルフマン
- リアル・スティール(2011年/アメリカ)
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