『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』は、アメリカン・ミッド・センチュリー・モダンのセンスがふんだんに注ぎ込まれた、スウィンギン&グルーヴィンなゴキゲン・ムービーである。
何せオープニングから、ソウル・バスやモーリス・ビンダーを彷彿とさせるグラフィカルなタイトル・デザイン。幾何学的で有機的なフォルムは、かつての『シャレード』や『トプカピ』のような、極彩色あふれる’60年代テイストを彷彿とさせる。
スピルバーグの盟友・ジョン・ウィリアムズによる音楽も、ヘンリー・マンシーニ風のソフィスティケートなアーリー・ジャズだ。
おまけに、本作の重要なモチーフとして登場するのがパンナム航空会社。汎アメリカ主義とも揶揄されたセレブリティー御用達のこの航空会社は、単にアメリカ国民の羨望の的だっただけではない。
その洗練された流線型のボディーは、アメリカン・ミッド・センチュリー・モダンのコンセプトを見事に体現する、まさにフューチャリスティックなアイコンだったんである。
モダンな意匠と、フランク・シナトラの『Come Fly with Me』やナット・キング・コールの『The Christmas Song』等のスタンダード・ナンバーに彩られた、小粋なクライム・コメディー。
だが映像と音楽の華やかさ、軽妙な語り口とは対照的に、その内容はなかなか深刻である。なぜなら、心優しき少年フランク・W・アバグネイルJr.(レオナルド・ディカプリオ)が世界を股にかける転載詐欺師となったのは、崩壊した家族を再生させるために巨額のマネーを必要としたからなのだ。
彼を追うFBI捜査官カール・ハンラティ(トム・ハンクス)もまた、十数年前に妻と離婚してクリスマス・イヴに一人仕事に明け暮れる孤独な男だ。彼はフランクの身辺調査を進めるうちに、少年時代の家庭の崩壊を知り、密かな共感を覚えていく。
この映画は、追う者と追われる者の孤独が寄り添い、友情を温め、やがて疑似家族(父子)を形成するまでの物語なんである。
「捨て子」、「空港」、「追うものと追われるもの」。『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』には、スピルバーグのフィルモグラフィーに通底するモチーフが満載だ。そこから浮かび上がって来るのは、深い海の底に漂うような孤独。かつてスピルバーグ自身が居た場所だ。
『シンドラーのリスト』では、己のユダヤ人としてのアイデンティティーを表出するために、あえてシリアスなタッチを採用したスピルバーグ。
あからさまに自己言及的ファクターが詰まったこの作品では、さすがにユーモア・タッチでしかドラマを構築できなかったものと推察する。
- 原題/Catch Me If You Can
- 製作年/2002年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/141分
- 監督/スティーヴン・スピルバーグ
- 製作/ウォルター・F・パークス、スティーヴン・スピルバーグ
- 製作総指揮/バリー・ケンプ、ローリー・マクドナルド、アンソニー・ロマーノ、ミシェル・シェーン
- 原作/フランク・W・アバグネイル、スタン・レディング
- 脚本/ジェフ・ナサンソン
- 撮影/ヤヌス・カミンスキー
- 衣装/メアリー・ゾフレス
- 編集/マイケル・カーン
- 音楽/ジョン・ウィリアムズ
- レオナルド・ディカプリオ
- トム・ハンクス
- クリストファー・ウォーケン
- マーティン・シーン
- ナタリー・バイ
- エイミー・アダムス
- ジェニファー・ガーナー
- フランク・ジョン・ヒューズ
- ブライアン・ホウ
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