一見、この二人の俳優はあなたの作品においてはどちらも交換可能な、同じタイプに見えますが、実はその使い方は全く異なっていて、ケーリー・グラントを使うときにはよりユーモアが、ジェームズ・スチュアートを使うときには、よりエモーションが強調されているように思われます
この発言に対してヒッチコックも同意を示し、
一見似たタイプの俳優だが、性格が全然違う。『知りすぎていた男』でジェームズ・スチュアートが演じた人物の静かな誠実さは、ケーリー・グラントでは出せないものだ
と述べている。女優の扱いがバツグンと称されたヒッチコックだが、実は男優の扱いも天下一品だったのだ。
スティーブ・マックイーン主演の『華麗なる賭け』は、例えるならジェームズ・スチュアート主演で『泥棒成金』を撮ってしまったような作品だ。『泥棒成金』は、ケーリー・グラントがプレイボーイの元大泥棒、グレース・ケリーがクールなヒロインを演じたアルセーヌ・ルパン式の洒落た冒険譚。
このような役をやらせたら右に出る者のいないケーリー・グラントが、持ち前の快活さとユーモアを存分に映画に注ぎ込み、軽妙洒脱なタッチを保証していた。生真面目な印象が強いジェームズ・スチュアートでは、とてもじゃないがここまでスマートな映画には成り得なかっただろう。
パブロ・フェロによるクールなオープニング・クレジット、ミシェル・ルグランによるリリカルでハイセンスな音楽、ノーマン・ジュイソンによるスプリット・スクリーンを多用した小粋な演出。
流麗かつ洗練されたサスペンス映画『華麗なる賭け』を構築するにあたって、その相貌に幾十にもシワを刻んだスティーブ・マックイーンの存在感はあまりにもヘビーすぎる。映画の質量を相対的に重くしてしまっているのだ。
フェイ・ダナウエイとのラブ・アフェアーなんぞ、大人の恋のコン・ゲーム(騙し合い)というようなゲーム感覚ではなく、ぬめり気のある妙な生々しさすら醸成しているではないか(それのどこが悪いんだと言われればそれまでですが)。絶対にこれはミスキャストだと思う。
まあひょっとしたら、ストイックでミステリアスなオーラを発散しまくるマックイーンの魅力に存分に浸るということでは、多分に淑女向けの映画なのかもしれぬ。
そういえば、小生の年老いた母親もマックイーンのファンと申しておりました。はい。
- 原題/The Thomas Crown Affair
- 製作年/1968年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/102分
- 監督/ノーマン・ジュイソン
- 製作/ノーマン・ジュイソン
- 脚本/アラン・R・トラストマン
- 撮影/ハスケル・ウェクスラー
- 編集/ハル・アシュビー
- 美術/エドワード・G・ボイル
- 音楽/ミシェル・ルグラン
- 衣装/セアドラ・ヴァン・ランクル
- スティーヴ・マックィーン
- フェイ・ダナウェイ
- ポール・バーク
- ジャック・ウェストン
- ビフ・マクガイア
- アディソン・パウエル
- アストリッド・ヒーリン
- ゴードン・ピンセント
- ヤフェット・コットー
- サム・メルヴィル
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