華麗なる賭け/ノーマン・ジュイソン

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かつてフランソワ・トリュフォーは『ヒッチコックの映画術』で、二人の偉大な俳優ケーリー・グラントとジェームズ・スチュアートに関し、以下のような発言をしている。

一見、この二人の俳優はあなたの作品においてはどちらも交換可能な、同じタイプに見えますが、実はその使い方は全く異なっていて、ケーリー・グラントを使うときにはよりユーモアが、ジェームズ・スチュアートを使うときには、よりエモーションが強調されているように思われます

この発言に対してヒッチコックも同意を示し、

一見似たタイプの俳優だが、性格が全然違う。『知りすぎていた男』でジェームズ・スチュアートが演じた人物の静かな誠実さは、ケーリー・グラントでは出せないものだ

と述べている。女優の扱いがバツグンと称されたヒッチコックだが、実は男優の扱いも天下一品だったのだ。

スティーブ・マックイーン主演の『華麗なる賭け』は、例えるならジェームズ・スチュアート主演で『泥棒成金』を撮ってしまったような作品だ。『泥棒成金』は、ケーリー・グラントがプレイボーイの元大泥棒、グレース・ケリーがクールなヒロインを演じたアルセーヌ・ルパン式の洒落た冒険譚。

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このような役をやらせたら右に出る者のいないケーリー・グラントが、持ち前の快活さとユーモアを存分に映画に注ぎ込み、軽妙洒脱なタッチを保証していた。生真面目な印象が強いジェームズ・スチュアートでは、とてもじゃないがここまでスマートな映画には成り得なかっただろう。

パブロ・フェロによるクールなオープニング・クレジット、ミシェル・ルグランによるリリカルでハイセンスな音楽、ノーマン・ジュイソンによるスプリット・スクリーンを多用した小粋な演出。

流麗かつ洗練されたサスペンス映画『華麗なる賭け』を構築するにあたって、その相貌に幾十にもシワを刻んだスティーブ・マックイーンの存在感はあまりにもヘビーすぎる。映画の質量を相対的に重くしてしまっているのだ。

フェイ・ダナウエイとのラブ・アフェアーなんぞ、大人の恋のコン・ゲーム(騙し合い)というようなゲーム感覚ではなく、ぬめり気のある妙な生々しさすら醸成しているではないか(それのどこが悪いんだと言われればそれまでですが)。絶対にこれはミスキャストだと思う。

まあひょっとしたら、ストイックでミステリアスなオーラを発散しまくるマックイーンの魅力に存分に浸るということでは、多分に淑女向けの映画なのかもしれぬ。

そういえば、小生の年老いた母親もマックイーンのファンと申しておりました。はい。

DATA
  • 原題/The Thomas Crown Affair
  • 製作年/1968年
  • 製作国/アメリカ
  • 上映時間/102分
STAFF
  • 監督/ノーマン・ジュイソン
  • 製作/ノーマン・ジュイソン
  • 脚本/アラン・R・トラストマン
  • 撮影/ハスケル・ウェクスラー
  • 編集/ハル・アシュビー
  • 美術/エドワード・G・ボイル
  • 音楽/ミシェル・ルグラン
  • 衣装/セアドラ・ヴァン・ランクル
CAST
  • スティーヴ・マックィーン
  • フェイ・ダナウェイ
  • ポール・バーク
  • ジャック・ウェストン
  • ビフ・マクガイア
  • アディソン・パウエル
  • アストリッド・ヒーリン
  • ゴードン・ピンセント
  • ヤフェット・コットー
  • サム・メルヴィル

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