未知との遭遇/スティーヴン・スピルバーグ

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ディズニーに対するリスペクトにあふれた、映画的“第三種接近遭遇”

ここに、セックス未経験の童貞くんがいたとする。彼は彼女と念願の初体験を果たし、一人前の「男」となった。しかし夜のテクニックはまだまだ未熟。彼は様々な女性と付き合い、次第に「男」として磨きをかけていく。

数年後すっかりナンパなプレイボーイとなった彼は、夜を共にする女性に自らの超絶テクニックをみせつけてやろうと大奮闘。アクロバティックなプレイもお手の物だ。しかし彼はすっかりテクニック重視に陥っており、彼女を心から愛撫する気持ちを忘れていた…。

スティーヴン・スピルバーグという映画作家を語る時、批評家はどうしてもテクニック重視のあざとさを指摘する。彼は果たしてナンパなプレイボーイに成り下がってしまったのか。しかし僕には「童貞の時に抱いていた女性への憧憬」を、いまだ持ち続けている作家にみえて仕方がない。

それはオカルティックや神秘的なものに対する根源的な好奇心であり、鋭い洞察力に裏打ちされた類いまれな探究心だ。そう、スピルバーグは童貞の気持ちを忘れないテクニシャンなんである(どういう例えだ)!

『未知との遭遇』は、そんな彼の資質がもっとも色濃く表れた作品なんではないか。巨大なマザーシップがデビルズ・タワー上空で反転するシーンだけでも、本作は映画史上に残る傑作になっただろう。

少なくとも僕にとって、この作品は単なる鑑賞行為ではなく、一種の“体験”であった。リチャード・ドレイファス演じる主人公と同じように、観客も映画というメディアを介して、第三種接近遭遇を果たしたのである。

スピルバーグ自ら書き下ろした脚本はところどころに説明不足が目立ち、シナリオとしては完成されたものとはお世辞にも言い難い。しかし、圧倒的な映像の力が全てを凌駕してしまう。瑞々しく豊潤、イングマール・ベルイマンにも通じる神秘的なイマージュが全編を包み込む。

映画はよく“光と影の芸術”と言われるが、さしずめ『未知との遭遇』は“光と音の芸術”といったところうか。

無数のUFOが放つ光のページェントは、東京ディズニーランドのエレクトリック・パレードのごとく美しいし、人類と異星人との電子音でのやりとりは、ベルリン・フィル・オーケストラのように素晴らしいハーモニーとなって轟く。我々はただ、光と音の奏でる芸術に圧倒されるのみだ。

『未知との遭遇』はスピルバーグの、ディズニーに対するリスペクトにあふれた作品でもある。物語の序盤で、リチャード・ドレイファスが遊園地に行きたがる子供たちを必死に説得して観に行こうとする映画は『ダンボ』(1941)だし、宇宙船が地球を去って行くシーンで、さりげなく挿入されているメロディは『ピノキオ』(1940)の主題歌『星に願いを』だ。

When you wish upon a star
Make no difference who you are
Anything your heart desires
Will come to you
If your heart is in your dream
No request is too extreme
When you wish upon a star
As dreamers do

現実はそう簡単ではない。世の中はそう思った通りにはいかない。ピーターパン症候群とも揶揄され、空想の世界は描けるが現実の世界は描けないと酷評されるスピルバーグ。だが、彼の思想・信条はこの歌に集約されているような気がしてならない。

批判をあえて甘受し、その上でファンタジーという名の理想郷をフィルムのなかに創造する。こんな芸当をやってのける映画作家はザラにはいない。フランソワ・トリュフォー演じるラコーム博士が、リチャード・ドレイファスに向かって語りかける「君がうらやましい」とは、スピルバーグ自身に対して発せられた言葉なのかもしれない。

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スピルバーグがかけた魔法は、たしかに観客の心に虜にした。僕にとって『未知との遭遇』は最も大切な映画の一本であり、『星に願いを』は最も大切な一曲だ。

彼がこれからどんな凡作を作ろうと、この作品がある限りスピルバーグは僕にとって永遠のヒーローであり続ける。

DATA
  • 原題/Close Encounters Of The Third Kind
  • 製作年/1977年
  • 製作国/アメリカ
  • 上映時間/135分
STAFF
  • 監督/スティーヴン・スピルバーグ
  • 脚本/スティーヴン・スピルバーグ
  • 製作/ジュリア・フィリップス、マイケル・フィリップス
  • 撮影/ヴィルモス・ジグモンド、ウィリアム・A・フレイカー、ダグラス・スローカム、ジョン・A・アロンゾ、ラズロ・コヴァックス、フランク・スタンレー
  • 音楽/ジョン・ウィリアムス
  • 美術/ジョー・アルヴス、ダン・ロミノ
  • 編集/マイケル・カーン
  • 録音/フランク・ワーナー
CAST
  • リチャード・ドレイファス
  • フランソワ・トリュフォー
  • テリー・ガー
  • メリンダ・ディロン
  • ケイリー・グッフィ
  • ボブ・バラバン
  • J・パトリック・マクナマラ
  • ウォーレン・ケマーリング

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