嘘っぽさに拍車がかかったヒトラー暗殺計画劇
小生浅学につき、ナチス政権下のドイツにおいて、ヒトラー暗殺計画が40回以上も企てられていたとは知らなんだです。
連合国軍による暗殺計画はもちろん、ドイツ軍内部のクーデターも画策されていたそうで、盤石の独裁体制と思われていたヒトラー政権も、一枚岩という訳にはいかなかったようである。
数ある暗殺計画のなかでも特に有名なのが、クラウス・フォン・シュタウフェンベルクを首謀者とする、「ワルキューレ計画」。
この計画、もともとはドイツ国内で叛乱が起きた場合に備えて策定された治安維持行動。クーデター派はこれを利用して、ヒトラー暗殺後に国内の主要機関を掌握しようと目論む。『ワルキューレ』(2008年)はシュタウフェンベルクの視点から、「ワルキューレ計画」を思いっきりエンターテインメント風味で映像化した映画だ。
それにしても、典型的アメリカン・マッチョのトム・クルーズにドイツ人を演じさせるとは、大胆というか無謀というか。連合軍から爆撃を受けて、右手首と左目を失うという設定は史実に基づいているのだが、黒いアイパッチにナチス軍服という出で立ちは、完全にコスプレ状態。
当然のごとく、映画も全編英語で進行する訳で(冒頭だけ申し訳程度にトムがドイツ語をしゃべっているが)、スケールは壮大なんだけど、どこかバラエティー番組のコントのような嘘っぽさが漂う。
もともと、シュタウフェンベルク役を演じる予定だったトーマス・クレッチマンもちょびっと出演しているが、彼が主役であったなら、多少映画のテイストも変わったのかもしれない。
『X-MEN』(2000年)や『スーパーマン リターンズ』(2006年)の監督を務めるなど、最近はすっかりアメコミ系のブライアン・シンガーだが、本作でもアメコミ調の大仰な演出に終始。グラフィック処理がどうにもゴージャスすぎて、嘘っぽさに拍車がかかるという悪循環に陥っている。
ケネス・ブラナー、テレンス・スタンプ、トム・ウィルキンソンという当代屈指の名優を揃えているのに、勿体ないことこの上なし!
それにしても、ここ最近のトム・クルーズの不振ぶりはどうしたことだろう。ユナイテッド・アーティスツは、クルーズと長年ビジネスパートナーを築いてきた、ポーラ・ワグナーが共同経営を務める製作会社だが、ここ2年間でリリースした映画は、この『ワルキューレ』と、ロバート・レッドフォード監督作品『大いなる陰謀』(2007年)のみ。
どちらも大コケしてしまい、親会社のMGMもご立腹のご様子。その盟友ポーラ・ワグナーも、ユナイテッド・アーティスツCEOの座を降りてしまったらしいが、我らがトムは、果たして次作にどのような映画をラインナップさせるのか。
いっそのこと、彼のドキュメンタリーつくったほうが客が入るんじゃないのかねえ。サイエントロジーの作品でも撮れば、彼も立派にシャーリー・マクレーンの系譜を継げるんだが。
- 原題/Valkyrie
- 製作年/2008年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/120分
- 監督/ブライアン・シンガー
- 脚本/クリストファー・マッカリー、ネイサン・アレクサンダー
- 製作/ブライアン・シンガー、クリストファー・マッカリー、ギルバート・アドラー
- 製作総指揮/クリス・リー、ケン・カミンス、ダニエル・M・シャイダー、ドワイト・C・シェアー、マーク・シャピロ
- 撮影/ニュートン・トーマス・シーゲル
- 音楽/ジョン・オットマン
- 編集/ジョン・オットマン
- 美術/リリー・キルバート、パトリック・ラム
- 衣装/ジョアンナ・ジョンストン
- トム・クルーズ
- ケネス・ブラナー
- ビル・ナイ
- トム・ウィルキンソン
- カリス・ファン・ハウテン
- トーマス・クレッチマン
- テレンス・スタンプ
- エディ・イザード
- ケビン・マクナリー
- クリスチャン・ベルケル
- ジェイミー・パーカー
- デヴィッド・バンバー
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