「すべてが民主化されている現代で真の独裁者たりうる職業は、映画監督だけだろう」
これはフランシス・F・コッポラの弁だが、自身の出世作である『ゴッドファーザー』(1972年)において、彼は独裁的な振る舞いを発揮することはできなかった。
おエラ方の「マフィア映画を撮るなら監督もイタリア人でならぬ」という、真っ当というかテキトーというか、単純な理由で指名を受けたコッポラだが(彼は最初このオファーを断った)、製作過程でプロデューサーのロバート・エバンズとたびたび衝突したのは有名な話。映画業界における政治性を痛感したそうである。
その忸怩たる思いがあったためか、『ゴッドファーザー』の世界的な成功のあとに作られた『カンバセーション…盗聴…』は、予算的にもテーマ的にも、コッポラが全体をコントロールしやすい小品に。しかも物語は非常に自己言及的。
ジーン・ハックマン演じるプロの盗聴屋が、ひょんなことからある殺人計画に巻き込まれ、最終的には彼自身が盗聴される羽目に陥ってしまう、強烈なアイロニー。
それはまるで、統治者であるはずの映画監督が、結局はプロダクションの統治下にあることを自覚せざるを得ない!というプロセスをなぞっているかのごとし。
「盗聴する」、すなわち「他人のプライバシーに介入する」というプロットを展開した映画といえば、過去にはヒッチコックの『裏窓』(1954年)、ブライアン・デ・パルマの『ミッドナイトクロス』、近年ではトニー・スコットの『エネミー・オブ・アメリカ』が挙げられる。
しかし『カンバセーション…盗聴…』は、それが作劇上の仕掛けのみにとどまらず、コッポラの“都会における孤独”というインテリ的感受性と、充足されない独裁者願望が導入されたことによって、シニカルな都会派サスペンス映画に仕上がっている。
ロバート・デュバル、ジョン・カザール、フレデリック・フォレスト、ハリソン・フォードといったキャストは、後年『地獄の黙示録』(1979年)に横滑り出演。
しかし相次ぐ撮影困難、財政的圧迫、外部からの干渉という「戦争」を経て完成した『地獄の黙示録』は、コッポラにとっても黙示録的な体験となってしまった(その経緯は、ドキュメンタリー・フィルム『ハート・オブ・ダークネス コッポラの黙示録』に詳しい)。
“天皇”と称された黒澤明を敬愛するコッポラは、ここでも独裁主義を全うすることはできなかったんである。
- 原題/The Conversation
- 製作年/1973年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/76分
- 監督/フランシス・フォード・コッポラ
- 製作/フレッド・ルース
- アソシエイト・プロデューサー/モナ・スカジャー
- 脚本/フランシス・フォード・コッポラ
- 撮影/ビル・バトラー
- 音楽/デヴィッド・シャイア
- 編集/リチャード・チュウ
- ジーン・ハックマン
- ジョン・カザール
- アレン・ガーフィールド
- フレデリック・フォレスト
- シンディ・ウィリアムズ
- マイケル・ヒギンズ
- エリザベス・マックレー
- テリー・ガー
- ハリソン・フォード
- ロバート・デュヴァル
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