グッド・センスな嗅覚を手掛かりにソフィア・コッポラ素描する、少女たちの思春期
巨匠フランシス・フォード・コッポラの娘としてこの世に生を受け、幼児期に『ゴッドファーザー』(1972年)、『ゴッドファーザー Part II』(1974年)に出演、10代でシャネルのカール・ラガーフェルドにデザインを学び、23歳で自身のブランド「MILK FED.」を立ち上げ、フォトグラファーやPVの監督としても活躍。
金もコネもある己の出自を疎むことなく、実にアッケラカンとクリエイティヴ・ライフを奔走してきたソフィア・コッポラが、28歳の時に満を持して初監督に挑んだのが『ヴァージン・スーサイズ』(1999年)である。
ジェフリー・ユージェニデスのベストセラー小説『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』(1993年)を原作にしたこの映画は、1970年代のミシガン州が舞台。
美しく謎めいたブロンド髪の5人姉妹、テレーズ、メアリー、ボニー、ラックス、セシリアが自ら命を断つまでを描いた、ヘビー級に重い題材なれどあくまでポップな軽やかさを漂わせるガーリー・ムービーなんである。
少女時代とは、その鋭敏すぎる感受性で世界のざわめきを感じ取り、死と生の狭間を孤独に泳ぐ日々だ。現実と空想の世界に心身が切り裂かれ、不規則な鼓動音を奏でる季節だ。
そんなガーリー・デイズを切り取るにあたって必要なのは、卓越した技術でも計算し尽くされたロジックでもなく、研ぎすまされた“センス”である。
産まれた頃からクリエイティヴの英才教育を受けてきたソフィア・コッポラは、たぶん自分自身のセンスを信じきっている。
デザインも写真も音楽も、彼女が愛好するサブカルチャーは最高にグッド・センスなものばかり。ソフィアはその鋭敏な嗅覚を頼りに、繊細さと危うさがギリギリのところで共存している少女たちの思春期を、素描する。
剃刀で腕を切るものの一命をとりとめた末妹セシリアは、自殺の理由を問う医者に対して、「あなたは少女じゃないもの」と答えているが、これってソフィア・コッポラが、”少女=処女の代弁者”として強烈な自信を有している証左ではないか。
しかも彼女がしたたかなのは、少女たちのインナー・ワールドへ必要以上にアクセスすることを自主規制して、あくまで5人姉妹に恋焦がれるイケてない童貞ボーイズの視点で物語を紡いでいること。
ガーリーなエニグマを解き明かすのではなく、謎は謎のまま提示しているのだ。キルステン・ダンストやA・J・クックが見せる憂いも哀しみも喜びも、全ては一陣の風のようにふっと消え失せてしまう。だから僕たちオトコは、少女たちの一瞬一瞬の身のこなしに目が離せない。
『ヴァージン・スーサイズ』は乙女心をくすぐる映画であると同時に、DT(童貞男子)の気持ちもくすぐる映画なのだ。
- 原題/The Virgin Suicides
- 製作年/1999年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/97分
- 監督/ソフィア・コッポラ
- 脚本/ソフィア・コッポラ
- 原作/ジェフリー・ユージェニデス
- 製作/フランシス・フォード・コッポラ、ジュリー・コスタンゾ、ダン・ハルステッド、クリス・ハンレイ
- 製作総指揮/フレッド・フックス、ウィリ・バール
- 撮影/エドワード・ラックマン
- 美術/ジャスナ・ステファノヴィク
- 編集/ジェームズ・ライオンズ、マリッサ・ケント
- 音楽/エール
- 衣装/ナンシー・シュタイナー
- キルステン・ダンスト
- ハンナ・ホール
- ジェームズ・ウッズ
- キャスリーン・ターナー
- ジョナサン・タッカー
- ジョシュ・ハートネット
- チェルシー・スウェイン
- A・J・クック
- レスリー・ヘイマン
- ダニー・デヴィート
- マイケル・パレ
- スコット・グレン
- ロバート・シュワルツマン
- ヘイデン・クリステンセン
- ジョー・ディニコル
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