俳優の演技+そこに漂うビミョーな空気感で笑いを生成する、バラエティー番組的演出
思えば「デトロイト・メタル・シティ、めっちゃ面白いッスよ!」と僕に原作マンガを貸してくれたのは、会社の後輩A氏だった。
オシャレな渋谷系ミュージシャンを目指し上京したものの、なぜか事務所の方針により希望と真逆のデスメタルバンドをやらされてしまう、というくだらない設定に思わずクスリとなったのだが、そもそもA氏自身が熱狂的な渋谷系マニア。
音楽関係とは全く関係ない仕事に従事している自分と、DMCの主人公・根岸崇一とをおもいっきり重ね合わせて読んでたのかもしれないと思うと、妙に物悲しい気持ちになってしまったことを、つい昨日のことのように覚えております。お元気ですか?A氏。
まあそんなことはどーでもよくて、映画版『デトロイト・メタル・シティ』(2008年)である。映画を観終わって、「この監督はたぶん、TVのバラエティー番組出身なんじゃないか?」と直感したんだが、ぴったしカンカン!
監督の李闘士男は、『とんねるずのみなさんのおかげです』、『SMAP×SMAP』、『サタ★スマ』、『タモリのジャポニカロゴス』などなど、あまたのバラエティー番組を演出。
その後は『美少女H』(1998年)、『明日があるさ』(2001年)、『ガンジス河でバタフライ』(2007年)などドラマ製作に転向、2004年に『お父さんのバックドロップ』で映画監督デビューを果たすという、堤幸彦パターンを踏襲した人物だったんである。
直感の根拠は、ギャグの演出手法が完全に板付きだったこと。PV出身監督であればカットを割ってスピード感を付与したくなるものだろうが、李闘士男はカメラを真ん中に据えて、俳優の演技+そこに漂うビミョーな空気感で、笑いを生成してしまう。
遊園地のトイレで偶然後輩(渋谷系ミュージシャンとして活躍中)と出くわしたクラウザー様が、彼が口ずさむポップ&キュートなメロディーにノリノリで踊ってしまうシーンなんぞ、典型的演出。
バラエティーの基本はカット割りや構図ではなく、演者が醸し出す瞬発的な笑いをカメラにおさめることにある。超高速テンポで物語をたたみこんでいくのではなく、カットを割らないオーソドックス演出でストーリーを綴っていく。
松雪泰子演じる超Sキャラのデスレコード社長、秋山竜次演じるド変態ドラマー、大倉孝二演じるDMCの追っかけフリーターと、出演者によるメーターの振り切ったオーヴァー・アクトによって、李闘士男の仕掛けたギャグの地雷爆弾は次々と起動する仕掛けになっているのだ。
だが李闘士男は、オンガクという抽象表現をビジュアライズするにあたって、広角レンズを使って極端な遠近をつけてみたり、フィルターを使ってヴィヴィッドな色彩効果を産み出そうとしたりと、箱庭的・室内的な演出に腐心。
しかし、肝心の“カメラを動かす”という映像的ダイナミズムには手をつけていない。己にカメラを動かす技術がないことを自覚しているからか?
それにしても、松山ケンイチのカメレオンぶりには舌を巻く。何てったってこのヒト、出世作が『デスノート』(2006年)のL役。今作のヨハネ・クラウザー2世役といい、キワモノ系をここまで軽々と演じられる俳優もいないのではないか。
2009年には崔洋一監督の『カムイ外伝』でカムイ役を演じるらしいが、ここまできたら、ありとあらゆるマンガの実写化にチャレンジしていただきたい。個人的には、新井英樹の代表作『ザ・ワールド・イズ・マイン』のトシ役なんかピッタリだと思うんですけど。
- 製作年/2008年
- 製作国/日本
- 上映時間/104分
- 監督/李闘士男
- 脚本/大森美香
- エグゼクティブプロデューサー/市村南、塚田泰浩、山内章弘
- 企画/川村元気
- プロデューサー/樋口優香
- 撮影監督/中山光一
- 照明/武藤要一
- 美術/安宅紀史
- 録音/郡弘道
- 編集/田口拓也
- ラインプロデューサー/鈴木嘉弘
- 音楽/服部隆之
- 松山ケンイチ
- 加藤ローサ
- 秋山竜次
- 細田よしひこ
- 鈴木一真
- 高橋一生
- 宮崎美子
- 大倉孝二
- 岡田義徳
- ジーン・シモンズ
- 松雪泰子
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