ニコール・キッドマンの人工的な美しさが際立つ、正統派ゴシック・ホラー
【思いっきりネタをばらしているので、未見の方はご注意ください。】
東洋的精神性が作品に色濃く反映される、『アンブレイカブル』(2000年)のナイト・シャマラン。時制を置き換えることによって、自由な映画話法を自家薬籠中のものとした、『メメント』(2000年)のクリストファー・ノーラン。インダストリアル・ノイズな世界観を、スタイリッシュに素描する、『π』(1998年)のダーレン・アロノフスキー。ハリウッド映画界は、才能溢れるフィルムメーカーの百花繚乱状態だ。
1991年に弱冠19歳で短編スリラー『Himentero』で監督デビューを果たし、1996年にアナ・トレントを主演に迎えた『テシス・次に私が殺される』で絶賛を浴び、1997年に『オープン・ユア・アイズ』で東京国際映画祭のグランプリを獲得したアレハンドロ・アメナーバルは、特に括弧付きで語らなければならない才能だろう。
どのようなテーマにコーティングされていようと、彼の関心は常に人間そのものにある。トリッキーなプロットすら人間の愛憎を描くための増幅装置として機能させてしまう、異能の映画作家なのだ。
禿頭のハリウッド・スターと終始泣き顔の天才子役が出演して、大ヒットを記録した某作品と全く同じオチでありながら、しかし『アザーズ』(2001年)は正統派ゴシック・ホラーとして認知すべき作品である。
第二次大戦末期の、古色蒼然とした洋館を舞台に展開される物語は、堅牢なまでにクラシカルな佇まい。それに呼応するがごとく、アレハンドロ・アメナーバルはニコール・キッドマンを市川崑ばりの極端なコントラストで陰影をつけ、人工的な程の美しさを際立たせている。
ニコール・キッドマンが演じる“グレース”という役名は、明らかにヒッチコック映画のファム・ファタールであるグレース・ケリーを出自としているのだろうが、確かにこの作品には、ヒッチコック作品的な手触りがあるのだ。
カトリックを信仰する敬虔なクリスチャンであったはずのニコール・キッドマンが我が子を手にかけた殺人者であり、ゴーストに怯える自分自身がすでに死人であったという現実。「生」は「死」に、「光」は「闇」に一瞬にして反転する。
『シックス・センス』では、ブルース・ウィリスはその現実を粛々と受け入れ、哀しみのなか「生」への決別をはかった。しかし本作のニコール・キッドマンは、現実を受け入れながらも、その「生」への執着心ゆえに今生への安住を求めた。
剥き出しのエゴイズムが露出され、虚構と現実を露悪的に暴き出され、最終的には人間の愛憎がドラマとして収斂していく。老練と呼んでもさしつかえないであろう卓越した演出が、この作品には確かにある。
- 原題/The Others
- 製作年/2001年
- 製作国/アメリカ、スペイン、フランス
- 上映時間/104分
- 監督/アレハンドロ・アメナバール
- 脚本/アレハンドロ・アメナバール
- 製作/フェルナンド・ボヴァイラ、ホセ・ルイス・クエルダ、サンミン・パーク
- 製作総指揮/トム・クルーズ、ポーラ・ワグナー、ボブ・ワインスタイン、ハーヴィー・ワインスタイン、リック・シュワルツ
- 撮影/ハヴィエル・アギレサロベ
- 音楽/アレハンドロ・アメナバール
- 美術/ベンジャミン・フェルナンデス
- 編集/ナチョ・ルイス・キャピリア
- ニコール・キッドマン
- フィオヌラ・フラナガン
- クリストファー・エクルストン
- アラキナ・マン
- ジェームズ・ベントレー
- エリック・サイクス
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