重箱の隅をつつくかのごとく、ディティールにこだわりまくった、箱庭的コメディーがかつての三谷幸喜のオハコ芸だったとすると、50歳を迎えた現在進行形の三谷幸喜は、新しいフェーズに突入しているようだ。
妻殺しの容疑で逮捕された男の、無罪を証明する唯一の目撃者が、落武者の幽霊(西田敏行)だった、という破天荒設定がバカバカしくもおかしい『ステキな金縛り』は、法廷を舞台にしたコメディ。
法廷劇といえば、過去にも『12人の優しい日本人』や『合い言葉は勇気』といった作品でお馴染の設定であり、まさに「ディティールにこだわりまくり」で「箱庭的」な、三谷作品にジャストフィットな舞台である。
しかし『ステキな金縛り』は、縦横無尽に張り巡らせた伏線が次々に機能するコメディーではなく、サスペンスも人情モノもぜーんぶミックスした、なかなか欲張りな作品。
今までにないほどロケーションも積極活用され、次々に場面が転換される。これだけの要素をゴッタ煮しているにも関わらず、後味はしっかり「三谷印」でまとめているあたりは、サスガと感嘆するしかなし。
しかしながら昔ながらの三谷ファンからすると、笑いと涙とスリルをのべつまくなしに注ぎ込んだ結果、以前のようないい意味での「クドさ」はだいぶ緩和され、コクがなくなってしまっている印象。
ソフィスティケートされた「上質の笑い」を追求してきた三谷幸喜にしては、あまりにもベタなオチの付け方が多すぎるのだ。安倍晴明の友達の安倍明々の子孫なる安倍つくつく(市村正親)なんぞ、完全に出落ちキャラだったりするし。
映画の後半は人情話の割合が多くなって、あのテこのテで観客の涙腺を刺激せんと企んでいるんだが、最後に天国から父親役の草なぎ剛が現れて娘の深津絵里の肩を抱き寄せる、なーんて最後のシーンにも顕著なように、このあたり泣きの芝居もかなりベタ。
ひょっとしたら三谷自身、齢を重ねてベタの普遍的強度に自覚的になり、あえてこのような演出にチャレンジしたのかもしれないが。
ミステリーとしての濃度も低い。せっかく得意の法廷劇に持ち込んでいるにも関わらず、そこで繰り広げられるのは『古畑任三郎』的な論理的帰結ではなく、これまたベタなドタバタ劇である。
いみじくもKAN演じる容疑者の男が、「あのーだいぶ僕、ないがしろにされてるみたいなんですけど…」と語るとおり、物語は彼の無罪証明ではなく、落武者・更科六兵衛の人となりにスポットがおかれ、大騒ぎのうちにドラマは進行する。
三谷ファンとして、これまでの監督作品は足繁く映画館に通ってきた僕ですが、『ステキな金縛り』は正直底の割れた感が否めず、素直に「スキ」とは言いかねる映画だ。
しかし、観終わってシアワセな気持ちになれるには間違いないし、深津絵里の天真爛漫なコメディエンヌぶりには拍手喝采を送りたくなる(和製シャーリー・マクレーンは彼女かもしれない!)。
エンディングで彼女が歌う「ONCE IN A BLUE MOON」が館内に流れるとき、僕はその歌声に耳を傾けながら至福の時間を味わう。それだけでこの映画はオッケーなのかもしれない。
- 製作年/2011年
- 製作国/日本
- 上映時間/142分
- 監督/三谷幸喜
- 脚本/三谷幸喜
- 製作/亀山千広、島谷能成
- 企画/石原隆、市川南
- プロデューサー/前田久閑、土屋健、和田倉和利
- ラインプロデューサー/森賢正
- 撮影/山本英夫
- 照明/小野晃
- 録音/瀬川徹夫
- 美術/種田陽平
- 音楽/荻野清子
- 編集/上野聡一
- VFXプロデューサー/大屋哲男
- スクリプター/山縣有希子
- 衣裳/宇都宮いく子
- 装飾/田中宏
- 深津絵里
- 西田敏行
- 阿部寛
- 中井貴一
- 小林隆
- KAN
- 竹内結子
- 山本耕史
- 浅野忠信
- 市村正親
- 草彅剛
- 木下隆行(TKO)
- 小日向文世
- 佐藤浩市
- 深田恭子
- 篠原涼子
- 唐沢寿明
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