“自分で自分をコントロールできない男の物語”を、“自分で自分をコントロールできなかった映画監督”が描いた映画
『世界にひとつのプレイブック』(2012年)の原題は、『Silver Linings Playbook』。“Silver Linings”とは“逆境時の希望の光”という意味であり、“Playbook”とはアメリカンフットボールの戦術本のことである。つまり「逆境時に希望の光となる戦術本』が、正確なタイトルなのだ。
これじゃあ説明的すぎるわ冗長だわ・・・ってなことで、邦題は『世界にひとつのプレイブック』になったんだろうが、まあこれも良く分からんタイトルである。少なからず『プレイブック』を『プレイバック』と誤読している御仁もいるんではないか?
この映画には2種類の人間しか登場しない。ちょっと頭のおかしい奴と、そうとう頭のおかしい奴である。そもそも、主人公のラッセル(ブラッドレー・クーパー)と、ヒロインのティファニー(ジェニファー・ローレンス)が躁うつ病患者という設定。
ラッセルは、愛妻と同僚がシャワールームでイチャついているのをみて逆上し、男をタコ殴りして精神病院に送られるサイコ野郎。ティファニーは、夫が交通事故で死んだショックで職場の人間全員とヤリまくり、挙げ句の果てに会社から解雇されてしまうアバズレ女。
そんなおかしな男女が繰り広げるおかしなラブストーリーであるからして、タイトルが多少おかしかろうと、たいした問題ではないのだ。
パンフレットに収録されていたデヴィッド・O・ラッセルのインタビューによると、彼の息子が躁うつ病を抱えていたことから内容に深く共感し、本作の映画化を決意したのだという。
しかし同じくパンフレットに寄稿されている映画評論家・町山智浩の解説によれば、デヴィッド・O・ラッセル自身が業界では有名な“キレキャラ”で、撮影時もところかまわず怒鳴りまくる困ったちゃんだったそうな(あの温厚なジョージ・クルーニーをも激怒させたらしい!)。
おまけに作る映画は『スリー・キングス』(1999年)や『ハッカビーズ』(2004年)など、“内容が訳分からないうえ、客も入らない映画”ばかり。
その特異な才能は一目置かれていたが、ハリウッドでは完全に干された状態だったんである。そう考えると、『世界にひとつのプレイブック』は、完全にデヴィッド・O・ラッセル自身を引き写した物語であることが分かる。
“自分で自分をコントロールできない男の物語”を、“自分で自分をコントロールできなかった映画監督”が、見事にコントロールして映画を撮り上げたのだから、それだけで感動的ではないか。
精神を病んだ男女の恋愛を、ハリウッド的な快感原則にのっとりつつ、チャーミングなラブストーリーとして着地させるなんぞ、なかなかできる芸当ではない。
実はこの映画、けっこう赤面モノのベタなセリフもあったりする。しかしラッセルが、スティービー・ワンダーの『My Cherie Amour』が聞こえる度にパニックを起こすとか、『武器よさらば』を読んで「ヒロイン死んじゃうじゃん!!」と夜中に発狂するとか、アタマが破裂しそうなシークエンスが作品の大部分を占めているので、ベタもまったく気にならない(むしろ、バランス的には必須だろう)。
クライマックスのダンスバトルシーンも、『Shall we ダンス?』(1996年)を地でいく王道的展開なれど、これまた全体を程良く中和する緩衝材になっている。このあたりの計算は非常に見事だ。
そして何よりも、ティファニーを演じるジェニファー・ローレンスの素晴らしさよ!弱冠22歳という年齢ながら、場末のバーにたたずむママ的母性を漂わせ、陽性と陰性の眼差しを併せ持つ。演じる役柄が爆乳かつ純情なツンデレ未亡人(しかもアバズレ)たあ、辛抱たまらんキャラ設定なり。
アカデミー主演女優賞の獲得も大納得!これからも演技と乳に磨きをかけて、女優道を邁進していただきたい所存。
- 原題/Silver Linings Playbook
- 製作年/2012年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/122分
- 監督/デヴィッド・O・ラッセル
- 脚本/デヴィッド・O・ラッセル
- 原作/マシュー・クイック
- 製作/ブルース・コーエン、ドナ・ジグリオッティ、ジョナサン・ゴードン
- 製作総指揮/ブラッドレイ・クーパー、ジョージ・パーラ、ボブ・ワインスタイン、ハーヴェイ・ワインスタイン
- 音楽/ダニー・エルフマン
- 撮影/マサノブ・タカヤナギ
- 編集/ジェイ・キャシディ
- ブラッドレイ・クーパー
- ジェニファー・ローレンス
- ロバート・デ・ニーロ
- ジャッキー・ウィーヴァー
- クリス・タッカー
- ジュリア・スタイルズ
- アヌパム・カー
- ブレア・ビー
- シェー・ウィガム
- ジョン・オーティス
- ポール・ハーマン
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