スパイ・サスペンスと思いきや、突然航空アクション映画に変貌する欲張りムービー
『ファイヤーフォックス』(1982年)といっても、Webブラウザの話ではない。
音速の6倍で飛行するソ連のステルス戦闘機ミグ31を奪取するまでのプロセスを描いた、ヒッチコックばりのスパイ・サスペンス映画である…と思いきや、上映時間が残り30分を切ると、突如ジェット戦闘機によるドッグ・ファイト山盛りのアクション映画に変貌してしまうという、前半と後半のギャップの激しい映画なのだ。
原作はクレイグ・トーマスによる同名小説だが、執筆にあたってはミグ25事件に大きなヒントを得ている。1976年、ソビエト連邦軍の現役将校ベレンコが迎撃戦闘機ミグ25に乗って、日本の函館に強行着陸するやいなや亡命を求めたという事件は、当時大きな話題を呼んだ。
押井守の『機動警察パトレイバー2 THE MOVIE』(1993年)でも、日本の防空体制を見直すきっかけとしてこの事件が語られている。しかし映画版ではそんな政治色はナッシング。余計な伏線は張らず、純粋にエンターテインメントであらんとしている。いや、荒唐無稽というべきか。
イーストウッド演じる主人公のミッチェル・ガントは、「ロシア語が話せて、ファイヤーフォックスを乗りこなす技術をもったパイロット」という条件にバッチリ適合するということで、ソ連潜入のミッションに狩り出されるんだが、映画内では基本的にアメリカ人もロシア人も英語を喋るという異常事態。このおおらかさが、この映画の魅力だったりする。
しかしまあ特筆すべきはやっぱりラストシーンだろう。このステルス戦闘機、操縦者の思考をコンピューターが検知して、手動操作のタイムラグなしに攻撃を行えるのが最大のウリなのだが、その際に操縦者はロシア語で思考しなければならない。
そもそもこの設定がいかがなものかと思うが、ラストでイーストウッドがピンチに陥った際に、中盤であっさり殺されちゃったはずの科学者が「ロシア語で考えろ!」と心の声を投げかけるという、『スター・ウォーズ』の「フォースを使え、ルーク!」と全く同じパターンを踏襲しているのだ。戦闘機の動きも、背景が北極海であること以外、デス・スターに突入するXウィングの動きとほぼ変わらない。
『スター・ウォーズ』の特撮を担当したジョン・ダイクストラがこの作品にも参加してるから、っていう理由じゃないだろうが、『ファイヤーフォックス』が製作された1983年当時は空前のSFブームが巻き起こっていた訳で、節操のないパクリもOKだったんだろうか。
…とまあツッコミを入れまくっておりますが、結局何だかんだいって作品自体は面白いから不思議なんもんである。荒唐無稽さが映画の品格を落とすのではなく、むしろエンタメとして機能させてしまうイーストウッドの演出ぶりに、改めて感服してしまう次第。
- 原題/Firefox
- 製作年/1982年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/136分
- 監督/クリント・イーストウッド
- 製作総指揮/フリッツ・メインズ
- 製作/クリント・イーストウッド
- 脚本/アレックス・ラスカー、ウェンデル・ウェルマン
- 音楽/モーリス・ジャール
- 撮影/ブルース・サーティーズ
- 編集/ロン・スパン、フェリス・ウェブスター
- クリント・イーストウッド
- フレディ・ジョーンズ
- デヴィッド・ハフマン
- ウォーレン・クラーク
- ロナルド・レイシー
- クラウス・ロウシュ
- ナイジェル・ホーソーン
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