アウトロー/クリストファー・マッカリー

アンチ・ハリウッドな視点で作られたアンチ・トム・クルーズ映画

トム・クルーズのアクション・スターとしての名声を決定的にしたのが、『ミッション・インポッシブル』シリーズであることに異論はないだろう。

矢継ぎ早に進行するストーリー展開、CG多用の大がかりなアクション、そして超人的肉体能力を誇るトムの命懸けスタント。あらゆる目盛りがMAX状態の“足し算的思考”によって、同シリーズは世界的なヒットを記録した。

しかし、30年という長きに渡ってハリウッドのスーパースターの座に君臨してきたトムも、今や齢50を数える中年オヤジ。敏腕スパイのイーサン・ハントを演じ続けるには、だいぶトウが立つようになってきた。

そこでトムが目を付けたのが、英国作家リー・チャイルドの『ジャック・リーチャー』シリーズ。“あてもない流浪の旅を続ける退役軍人”ジャック・リーチャーが、優れた観察眼と推理力で怪事件を解決するという、現代版シャーロック・ホームズものである。

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『アウトロー』(リー・チャイルド)

白い歯がのぞくスマイルと、マッチョボディがパブリック・イメージだったトム・クルーズには珍しく、知的キャラで勝負!という訳だ。それでいて、重火器や格闘技にも精通しているという、どこまでも欲張りな設定である。

監督に起用されたのは、’95年の『ユージュアル・サスペクツ』(1995年)でアカデミー脚本賞を受賞した、クリストファー・マッカリー(ちなみに悪評高い『ツーリスト』のシナリオも手掛けている)。メガホンを取るのは『誘拐犯』以来12年ぶりというから、大抜擢といえるだろう。

このクリストファー・マッカリー氏、インタビューで「僕はアンチ・ハリウッド精神の持ち主だ」と公言し、好きな監督に挙げているメンツも、アラン・J・パクラ、シドニー・ルメット、ピーター・ボクダノヴィッチと渋い社会派ばかり。

ネームバリューのない彼の起用は大博打のように思えるが、“『ミッション・インポッシブル』的なハリウッド王道演出とは一線を画する”という戦略を考えれば、実は極めて妥当な人選だったのだ。

という訳でアンチ・ハリウッド視点で製作された『アウトロー』は、『フレンチ・コネクション』(1971年)、『サブウェイ・パニック』(1974年)、『ブラック・サンデー』(1977年)など、’70年代のクライム・アクション映画の匂いを放つ、実にオールドファッションな映画。

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『フレンチ・コネクション』(ウィリアム・フリードキン)

狙撃犯がライフルのスコープ越しにターゲットを探す、という出だしは、思いっきり『ダーティハリー』(1971年)だったりする。

『TAXi』(1998年)や『ワイルド・スピード』(2001年)のド派手カーアクションに目が慣れてしまった観客には、中盤のカーチェイスがかったるく見えてしまうだろうが、この緩慢な感じがスティーヴ・マックイーンの『ブリット』(1968年)風味だったりして、僕的には楽しめましたです。

確かに、シナリオのツッコミどころをとりあげたらキリがない。クリストファー・マッカリーは、自身を評するに「ストーリー性と理論的であることを重要視するタイプ」だそうだが、理屈のつかない展開が多すぎ!

「車の部品を売るバイトをしている」という情報だけで、事件の鍵を握る少女の居所を突き止めちゃうとか、女性弁護士ヘレン(ロザムンド・パイク)の口頭説明だけで、被害者の浮気を決めつけちゃうだとか、もはやジャック・リーチャーの推理力は、もはや超能力の域。

ロバート・デュバル演じる射撃場の親父が、リーチャーと共闘する理由もよく分からない。警察の手を逃れようとするトム・クルーズを、バスを待つ名も無き一般市民が助ける説明もナッシング!

おそらくこれはクリストファー・マッカリーの、確信犯的な作りなのだろう。前後の説明をあえて欠落させることで、説明過多のストーリーテリングから逃れ、ソリッドな手触りの映画を追求したのだ(じゃなかったら、単なる話下手だ)。

’70年代クライム・アクションを志向した作品として、これは実に正解なアプローチだったと思う。という訳で、ロザムンド・パイク演じる女性弁護士はカタブツっぽいキャラなのに、スーツからこぼれんばかりの巨乳をみせつけているのも、全然アリなのだ!

しかもこの『アウトロー』、ヘンなところでヘンなスラップスティック・シーンをインサートしていて、妙に笑えるのである。二人の悪漢が浴槽にいるジャックを襲撃するシーンなんぞ、なぜか敵同士がガンガン相手を叩きまくっていて、観客はもう爆笑必至。

それでいて「詫びのしるしに、小指を噛み切れ!」という『アウトレイジ』(2010年)みたいな気色悪いシーンもあり(しかも映画監督のヴェルナー・ヘルツォークが悪の親玉として出演)、全編にわたって余談の許さない展開になっている。

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トム・クルーズという俳優に対して僕個人は何の思い入れもないが、彼の作品の選び方、方向性には全幅の信頼をおいている。50歳を過ぎてキャリアも晩年期にさしかかっているが、『アウトロー』を観る限り、まだまだ彼の天下は続きそうなり。

DATA
  • 原題/Jack Reacher
  • 製作年/2012年
  • 製作国/アメリカ
  • 上映時間/130分
STAFF
  • 監督/クリストファー・マッカリー
  • 脚本/クリストファー・マッカリー
  • 原作/リー・チャイルド
  • 製作/トム・クルーズ、ポーラ・ワグナー、ゲイリー・レヴィンソン、ドン・グレンジャー、ケヴィン・J・メシック、デヴィッド・エリソン、デイナ・ゴールドバーグ
  • 製作総指揮/ジェイク・マイヤーズ、ポール・シュウェイク
  • 音楽/ジョー・クレイマー
  • 撮影/キャレブ・デシャネル
  • 編集/ケヴィン・スティット
CAST
  • トム・クルーズ
  • ロザムンド・パイク
  • リチャード・ジェンキンス
  • ロバート・デュヴァル
  • デヴィッド・オイェロウォ
  • マイケル・レイモンド=ジェームズ
  • ジェームズ・マーティン・ケリー
  • ニコール・フォレスター
  • アレクシア・ファスト
  • ジョセフ・シコラ
  • ジェイ・コートニー
  • ヴェルナー・ヘルツォーク

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