エロスを発動させないヘレン・ハントのチャーミングさ
あまたの銀幕を飾る女優たちに、淡い恋心を抱くのも映画ファンの特権なり。
『勝手にしやがれ』(1960年)のジーン・セバーグ、『アパートの鍵貸します』(1960年)のシャーリー・マクレーン、『ラスト・ショー』(1971年)のシビル・シェパード、『恋人たちの予感』(1989年)のメグ・ライアン、『リアリティ・バイツ』(1994年)のウィノナ・ライダー…。
僕もその例にもれず、報われない脳内恋愛を数十年間発動してきたものだ。そして間違いなく、『恋愛小説家』(1997年)のヘレン・ハントもまた、はからずも恋心(&少々の性欲)を抱いてしまった女優の一人である。
ヤン・デ・ボン監督の『ツイスター』(1996年)に出演していた時は、竜巻で吹き飛ばされる牛のビジュアル・イメージが強烈すぎて、正直ヘレン・ハントの印象なんぞ忘却の彼方だったが、『恋愛小説家』における彼女は最高である。最強である。
ジャック・ニコルソンが劇中で、「君が世界一の女性だと気づいている男は、私だけかもしれない」等とのたまうシーンがあるが、笑止千万!彼女のチャーミングさに接したなら、オトコなら誰しもゾッコン・フラグが立つことだろう。
とはいえ『恋愛小説家』でヘレン・ハントが演じるキャロルは、ニューヨークのダイナーで働くバツイチのしがないウェートレス、という役どころ。
ゴージャス感や溢れんばかりのエロスとは無縁、むしろ病気がちの息子へのケアに精一杯で、ときたまオトコといい感じのラヴ・アフェアーにおよんでも、「なんか生活感がありすぎて…」と結局逃げられてしまう始末である。
しかしながら、エロスを発動させないこと自体が、キャロルという役をこの上なくチャーミングなものにしている。例えば、土砂降りの中ジャック・ニコルソンのアパートを尋ねるシーン。
ブラジャーをしていなかったものだから、ずぶ濡れのTシャツ姿で乳首がスケスケだった…という、『初体験/リッジモント・ハイ』(1982年)みたいな、お色気ギャグがインサートされている。
もしこれが、ジェニファー・ロペスとかアンジェリーナ・ジョリーだったら、ギャグじゃなくて本気でリビドーがビンビンになってしまい、R指定になってしまっただろう。
ゲイの画家サイモン(グレッグ・キニア)に乞われてヌードモデルになるシーンも、エロスが起動するというよりも、彼女のボディラインの美しさが何よりもまず強調されていて、アーティストがクリエイティビティーを刺激される“ミューズ”の役割を果たしきっている。
ホント、そのライン美はルーブル美術館所蔵級である。天下のジャック・ニコルソンを向こうに回して一歩もひかない芝居をしているだけでも、もう素晴らしいじゃありませんか。
という訳で『恋愛小説家』は、映画の出来云々ではなく、僕の中では「ヘレン・ハント、サイコーー!」ムービーとしてしっかと鎮座しているのであります。
- 原題/As Good as It Gets
- 製作年/1997年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/139分
- 監督/ジェームズ・L・ブルックス
- 製作/ジェームズ・L・ブルックス、ブリジット・ジョンソン、クリスティ・ズィー
- 製作補/オーウェン・ウィルソン
- 製作総指揮/ローレンス・マーク、リチャード・サカイ、ローラ・ジスキン
- 脚本/マーク・アンドラス、ジェームズ・L・ブルックス
- 撮影/ジョン・ベイリー
- 音楽/ハンス・ジマー
- ジャック・ニコルソン
- ヘレン・ハント
- グレッグ・キニア
- キューバ・グッディング・Jr
- スキート・ウールリッチ
- シャーリー・ナイト
- イヤードリー・スミス
- レスリー・ステファンソン
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