イレイザーヘッド/デヴィッド・リンチ

イレイザーヘッド デイヴィッド・リンチ リストア版 [Blu-ray]

天国では何もかも叶うわ。
あなたも私も思い通りのもが手にいれられるの

異形のオタフク少女が、薄暗いステージ上でアッパラパーな唄を歌いながら、天井から落ちてくる精子を踏みつける。

もはやシュールを通り越して、ドラッギーなトリップ感覚。ミッドナイト・ムービーの先駆けともいえる作品が、この『イレイザーヘッド』なんである。

『ツインピークス』で空前のブームを巻き起こした映画界最強の変態監督、デヴィッド・リンチの長篇デビュー作だが、リハーサルを実生活にまで持ち込んだために、奥さんに逃げられてしまったという笑えないエピソードもアリ。

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これも若き日のリンチが、如何にこの作品に情熱とエネルギーを注いでいたかという証左ではないか。

ストーリーはナイトメアそのものである。いや、正確に言うならばリンチの紡ぎ出す強烈なイメージの羅列といった方が正確かも知れない。

舞台はフィラデルフィアの工業地帯、あたりは常に耳障りなノイズ音で満たされている。 内向的な青年、ヘンリーはある日仕事の帰りにガールフレンドのメアリーの家に出かけ、そこで彼女の妊娠の事実を聞かされる。

やがて彼は、彼女と産まれた赤ん坊と三人暮しを始めるが、その赤ん坊が世にも恐ろしいグロテスクな奇形児。メアリーは赤ん坊の夜泣きに耐え切れず、家を出ていってしまう。

一人残されたヘンリー。このあたりからストーリーはより混迷を極めていく。 ラジエーターに棲んでいるおたふく少女が何やら無気味な唄を歌いだし、転がり落ちたヘンリーの頭部が消しゴムの原料となり(何じゃそりゃ)、

ついにはヘンリーは、赤ん坊の心臓に刃物を突き立てる。一つ一つのシークエンスに脈絡は無く、永遠に続くかのようなインダストリアル・ノイズが、不安をかきたてていく…。

さて、気になるのはこの世にも無気味な「赤ん坊」の正体である。牛の胎児だとか、精巧なミニチュアだとか様々な諸説があって、あのスタンリー・キューブリックもどうやって撮影したのかを知りたがったらしい。

1978年にデヴィッド・リンチへのインタビューで、それに言及している部分があるので引用してみよう。

「あの赤ん坊はリンチさんがつくったんですか?」
「いや、申し訳ないがそのことについては話したくない。」
「あれが作り物なのかどうかを教えてくれればいいんですよ。まるで本物みたいでしたね。牛の胎児ではないか、という人もいるそうですが…。」
チ「そうらしいね。」
「 でも、私は作り物だと思うんです。どうやってあんなにリアルに動かせたのかが分からないんですが。電池で動かしているんですか?」
「だから、言えないんだよ…」

うーむ、嫌でもいろいろ勘ぐりたくなるインタビューではないか。あらぬ想像をさせてしまう、まさにミッドナイト・ムービーのカガミなのである。

『イレイザーヘッド』は、リンチのフリークスへの偏愛がフィルムを通じて伝わってくる作品だ。人間を一片の肉隗として描く狂乱の画家、フランシス・ベーコンをリンチになぞらえる人も多いが、根底にあるものは違うように思える。

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彼は人間を突き放していない。むしろ温かく包み込む。この姿勢は後の『ツインピークス』でも一貫している。若き日のリンチの映画に対するみずみずしさは、常人とはやや異なったアプローチで昇華しているのである。

『ブルーベルベット』や『ワイルド・アット・ハート』もいいが、通過儀礼としてこの映画を無視してリンチは語れやしない。

DATA
  • 原題/Eraser Head
  • 製作年/1977年
  • 製作国/アメリカ
  • 上映時間/90分
STAFF
  • 監督/デヴィッド・リンチ
  • 脚本/デヴィッド・リンチ
  • 製作/デヴィッド・リンチ
  • 音楽/ピーター・アイヴス
  • 編集/デヴィッド・リンチ
  • SFX/デヴィッド・リンチ
  • 美術/ジャック・フィスク
  • 撮影/ハーバード・カードウェル、フレデリック・エルムズ
CAST
  • ジャック・ナンス
  • シャーロット・スチュアート
  • アレン・ジョゼフ
  • ジーン・ベイツ
  • ジュディス・アンナ・ロバーツ
  • ローレル・ニア

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