HANA-BI/北野武

HANA-BI [Blu-ray]

ヴェネツィア金獅子賞を受賞した、義理と人情に溢れたハート・ウォーミング・ドラマ

北野武が、1994年にバイク事故を起こすまでに撮った『その男、凶暴につき』(1989年)、『3-4x10月』(1990年)、『あの夏、いちばん静かな海。』(1991年)、『ソナチネ』(1993年)の初期四部作は、彼の“照れ”の感覚が画面を支配していたように思う。

照れゆえにセリフは極端にそぎ落とされ、照れゆえに画面はスタティックに均一化され、照れゆえに性急なほど「死」に執着する。かくして映画は徹底的に純化され、バイオレンスは様式化される。第一期キタノ作品群は、純粋映画として絶対的強度を勝ち得ていたのだ。

だが、バイク事故で本気で死と向き合うことになった彼は、「映画作りとは己と正対することである」と認識したんではないか。照れを振りきって己の内実をさらけだすことが、映画作家の宿命であると悟ったんではないか。

生へのポジティヴなメッセージを発信した復帰作『キッズ・リターン』(1995)に続いて撮られたこの『HANA-BI』には、抑制されていたロマンチシズムがダダ漏れ状態。前述したキタノ映画フォーマットには則りながらも、その手触りは極めてウェットなのだ。

キッズ・リターン [Blu-ray]
『キッズ・リターン』(北野武)

久石譲による甘ったるいメロディーは饒舌さを増し、不治の病に冒された妻(岸本加代子)との何気ない夫婦のやりとりはホームドラマ化し(僕のほうが照れくさくて画面を直視できませんでした)、しまいには愛娘に凧上げさせてジ・エンド。

これをロマンシチズムと呼ばずして、何と言おう。下半身不随になった堀部(大杉連)が生きる意味を見出す点描画を、北野武自身が描いていること自体、照れを振り切って製作した証左である。

大胆なカットの省略、死への逃避行というモチーフは、実は思いっきりゴダールの『気狂いピエロ』1965年)だったりする。

気狂いピエロ [Blu-ray]
『気狂いピエロ』(ジャン・リュック・ゴダール)

しかし生来のモダニストであるゴダールに対して、北野武は浪花節の人。クールネスを装いながらも、照れを脱ぎ去ることによって、フィルムは義理と人情に溢れたハート・ウォーミング・ドラマに変貌している。

この作風は『菊次郎の夏』(1999年)にも踏襲されていくのだが、初期四部作のファンである僕としては、正直この変化にはガッカリさせられたクチである。緊張と停滞のミニマリズムが雲散霧消してしまったのだ。

第54回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞し、『カイエ・デュ・シネマ』が北野特集を組むなど、『HANA-BI』をきっかけにして、北野武は世界のキタノとなった。

肥大化してしまった名声に苦しみ、フェリーニのごとく自己言及的な作品にシフトしていくことになったのは、いわば必然だったんである。

DATA
  • 製作年/1998年
  • 製作国/日本
  • 上映時間/118分
STAFF
  • 監督/北野武
  • 製作/森昌行、鍋島寿夫、吉田多喜男
  • 脚本/北野武
  • 撮影/山本英夫
  • 特殊メイク/原口智生
  • 美術/磯田典宏
  • 衣裳/斉藤昌美
  • 編集/北野武、太田義則
  • 音楽/久石譲
  • 助監督/清水浩
CAST
  • ビートたけし
  • 岸本加世子
  • 大杉漣
  • 寺島進
  • 白竜
  • 薬師寺保栄
  • 逸見太郎
  • 矢島健一
  • 芦川誠
  • 大家由祐子
  • 柳ユーレイ
  • 渡辺哲

アーカイブ

メタ情報

最近の投稿

最近のコメント

カテゴリー