エネミー・オブ・アメリカ/トニー・スコット

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かつてハリウッドでは、『カプリコン・1』、『カサンドラ・クロス』、『パララックス・ビュー』をはじめ、「国家という巨大権力に単身立ち向かう、無力な一般市民」という構図のポリティカル・サスペンスが大量生産された。

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ベトナム戦争の傷跡生々しい’70年代のアメリカでは、体制側に対する怒りが、社会派映画というフォームを借りて結実したんである。

しかし『エネミー・オブ・アメリカ』は、国民へのプライバシー侵害という、“国家権力の横暴”をテーマに掲げてはいるものの、全世界盗聴・監視システムは単なる一個人の追跡ツールとして描かれ、屈託のないエンターテインメント作品として成立している。

何せメガホンをとるのが、細かいカット割りと大仰な映像表現が大好きなトニー・スコットで、主演を務めるのが、陽気なナイス・ガイのウィル・スミスだ。

リアリティスティックに陰謀論を押し進めるよりも、ド派手な爆破シーンや手に汗握るカー・チェイスが優先され、かつてのポリティカル・サスペンス映画の主人公たちが背負っていた寂寥感&孤独感は、ウィル・スミスが演じる時点でばっさりカット。

むしろ、かかる難事を飄々と切り抜けて行く姿は、『北北西に進路を取れ』のケーリー・グラントをも彷彿とさせる。「国家による陰謀論」的ストーリーはもはや既成事実化され、純然たる娯楽作品として消化されてしまっているのだ。

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最後はウィル・スミスが知恵を絞って、NSAとマフィアを対立させて難局を逃れるという、黒澤の『用心棒』みたいなオチの付け方にも、この作品が機転良く立ち回る頓知ムービーであることが見て取れる。

それにしても銃撃戦まで手ブレ演出というのは、トニー・スコットらしいといえばらしいが、観ているこっちは何が起きているのやらサッパリ分からん!。

この後、国家による監視システムというモチーフは、『ボーン・アイデンティティー』シリーズや、『踊る大捜査線 THE MOVIE 2』といった作品に引き継がれていく。

しかし9・11以降、それが「国民への脅威」という語られ方はさらに激減し、エンターテインメント映画を駆動させるためのツールとして活用されることになる。

色んな意味で、『エネミー・オブ・アメリカ』は潮の変わり目に登場したポリティカル・サスペンス映画として、記憶すべき作品なのだ。

DATA
  • 原題/Enemy of the State
  • 製作年/1998年
  • 製作国/アメリカ
  • 上映時間/140分
STAFF
  • 監督/トニー・スコット
  • 製作/ジェリー・ブラッカイマー
  • 脚本/デヴィッド・マルコーニ
  • 撮影/ダン・ミンデル
  • プロダクション・デザイン/ベンジャミン・フェルナンデス
  • 衣装/マーリーン・シュチュワート
  • 音楽/トレヴァー・ラビン、ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
CAST
  • ウィル・スミス
  • ジーン・ハックマン
  • ジョン・ヴォイト
  • リサ・ボネット
  • レジーナ・キング
  • バリー・ペッパー
  • ガブリエル・バーン
  • ジェイソン・リー
  • イアン・ハート
  • ジェイク・ビューシイ
  • トム・サイズモア

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