ピーター・ジャクソンらしいバッド・テイスト満載の、ファンタジー巨編
かつてスタンリー・キューブリックが映画化を検討するが、あまりにもストーリーが壮大すぎることから製作を断念。『殺しの分け前/ポイント・ブランク』(1967年)や『未来惑星ザルドス』(1974年)で知られるジョン・ブアマンも映画化を検討したものの、途方もない費用がかかるということから、企画を中止。
J・R・R・トールキンによるファンタジー小説『指輪物語』の映画化は、野心あるフィルムメーカーたちの夢だったが、あまりのスケールのデカさゆえに、誰も手が出せないまま20世紀が終わった。
しかしその夢は21世紀に入った2001年、ついに結実。『指輪物語』を三部作に分け、およそ15ケ月間かけて一挙に撮りあげてしまおうという試みもスゴイが、この作品は映画製作不毛の地ニュージーランドにおいて、過去に作られた映画作品すべての製作費の合計額を上回っているのだ!
この事実だけでも、『ロード・オブ・ザ・リング』(2001年)がいかにケタ外れのビッグ・プロジェクトであったかがよく分かる。まさに乾坤一擲、のるかそるかの大勝負。
おそらく第1作で失敗すれば、映画人としてのキャリアは消滅する。『ロード・オブ・ザ・リング』は、映画史において最もリスキーな冒険のひとつだ。この恐ろしく無謀な賭けにうって出たのが、鬼才ピーター・ジャクソン。
脳味噌喰ったり、ゲロを回し飲みしたり、もう何でもアリの悪趣味ド変態ムービー『バッドテイスト』(1987年)、幼児虐待や親殺し、最後は大量虐殺で幕を閉じる『ブレインデッド』(1992年)などなど、過去のフィルモグラフィーはB級映画どころかZ級映画の香りがプンプンと漂う。
良識のある一般の映画ファンなら、「好きな監督」ランキング上位に選出されることはまずないだろう(ただし映画秘宝読者を除く)。この悪趣味極まりないオタク系監督が、『指輪物語』の映画化に挑むというのだから、ニュースを聞いた時は仰天した。
結論から言うと、『ロード・オブ・ザ・リング』は過去に作られたファンタジー映画の中で、間違いなく映画史にその名を刻む畢生の大作である。胸躍るダイナミズム、理想的なヒーロー、美しく優雅なヒロイン。冒険物語の要素はあまねく満たしている。
しかしこの映画の最大の魅力は、ピーター・ジャクソンらしいバッド・テイストが、プラスの方向に作用していることだ。数年前ヒットした『本当は恐ろしいグリム童話』のように、民間伝承というものは基本的にウィアードで気味の悪いものなんである。
ピーター・ジャクソンは正統ファンタジーである『指輪物語』からそのエッセンスを抽出し、自身のキッチュな資質にうまく組み込んだ。エキセントリックな程に縦横無尽なカメラワークは、爽快感よりもスペクタクルな驚きに満ちている。
基本構造は同じながら、ファンタジーをお伽噺として捉え、お子様映画としての域を出なかったジョージ・ルーカスの『ウィロー』(1988年)との差はここにある。
「善」と「悪」が整然と存在してはいるが、単なる勧善懲悪のストーリーではない。「善」は「悪」の誘惑に幾度となくくじけそうになり、人間が本来抱えている闇が浮かび上がる。
重厚な人間ドラマと、とにかく物量作戦で観る者を圧倒するCG映像が渾然一体。『ロード・オブ・ザ・リング』は、ピーター・ジャクソンでしか撮りえない手触りに仕上がっているのだ。
この映画って、やっぱエンディング・テーマをエンヤではなくビョークあたりが担当すべき、病巣的な映画だと思う。
- 原題/The Lord 0f The Rings : The Fellowship Of The Ring
- 製作年/2001年
- 製作国/アメリカ、ニュージーランド
- 上映時間/178分
- 監督/ピーター・ジャクソン
- 脚本/ピーター・ジャクソン
- 製作/ピーター・ジャクソン、バリー・M・オズボーン、フラン・ウォルシュ、ティム・サンダース
- 原作/J・R・R・トールキン
- 脚本/フラン・ウォルシュ、フィリッパ・ボウエン
- 撮影/アンドリュー・レスニー
- 音楽/ハワード・ショア
- イライジャ・ウッド
- イアン・マッケラン
- リヴ・タイラー
- ヴィーゴ・モーテンセン
- ショーン・アスティン
- ケイト・ブランシェット
- ジョン・リズ・デイヴィス
- オーランド・ブルーム
- クリストファー・リー
- イアン・ホルム
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