少年期に終わりを告げる、恐怖のフェアリーテール
どんどん話が暗くなっていくこの『ハリー・ポッター』シリーズを、ファンはどのように受け止めているのだろうか。
ついに4作目にしてPG-13(13歳未満は保護者の同伴を推奨)対象作品となってしまったハリポタは、すでにファミリームービーの範疇を超え、『本当は怖いグリム童話』のごとく恐怖のフェアリーテールと化してしまっている。
僕は原作をきちんと読んだこともないし、特に映画に対しても思い入れはないんだが、ここまで作風が劇的に変化してしまうと、1作目からのファンの心情を察するに余りあります。
シリーズ初となる英国人監督マイク・ニューウェルは「子供は暴力的で、腹黒いアナーキストだ」が持論らしく(そんな奴にハリポタ撮らせていいのかよ!おい!)、全編をダークな色調で統一。
ヴォルデモート復活のシーンはほとんど『ロード・オブ・ザ・リング』のウルク・ハイ誕生シーンだし、マッドーアイ・ムーディが生徒に巨大クモを顔に張り付けさせるシーンなんて、完全に『エイリアン』のフェイス・ハガーだ。
さらにニューウェルはロングショットやクレーン撮影を積極的に導入して、箱庭的な学園ファンタジーからダイナミズム溢れる大河ドラマに変貌させようと腐心している。
何よりこの『炎のゴブレット』が過去の3作品と決定的に異なっているのは、基本的な作品構造が80年代的ティーンエイジャー・ムービーである、ということ。
華やかな魔法に心ときめかせる時代は過ぎ去り、ホグワーツ校学生諸君の関心事はもっぱら不純異性交遊!世界一のシーカーであるダームストロング校のクラムに憧れを抱きつつも、ロンに対する気持ちを封じ込めきれないハーマイオニーの複雑な女心。永遠に続くと純朴に思われていた彼らの友情のスクラムは、思春期を迎えて微妙な関係になりつつある。
今回親友のロンくんとも仲違いをしてしまうハリーであるが、クライマックスで復活したヴォルデモートとの決闘シーンを挙げるまでもなく、彼は常に孤独の中にさらされている。成長していくにつれ、ハリーくんは自らに流れる血を、自らのアイデンティティーを自覚せざるを得ないのないだろう。
望まずにして魔法界のスターとなってしまった彼の苦悩は、次回作以降ますます深まっていくに違いない。
「私たち、どんどん変わっていくのね」というハーマイオニーの最後のセリフに、このシリーズの行く末が暗示されている。ホグワーツにおいて、甘美で残酷な青春時代がいま始まろうとしているのだ。
- 原題/Harry Potter And The Goblet Of Fire
- 製作年/2005年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/157分
- 監督/マイク・ニューウェル
- 脚本/スティーブ・クローブス
- 原作/J・K・ローリング
- 製作/デイビッド・ヘイマン
- 製作総指揮/デイビッド・バロン、ターニャ・セガーチェン
- 撮影/ロジャー・プラット
- 美術/スチュアート・クレイグ
- 編集/ミック・オーズリー
- 共同製作/ピーター・マクドナルド
- 音楽/パトリック・ドイル
- 視覚効果監修/ジム・ミッチェル
- 衣裳/ジェイニー・ティーマイム
- ダニエル・ラドクリフ
- ルパート・グリント
- エマ・ワトソン
- トム・フェルトン
- スタニスラフ・アイエネフスキー
- ケイティ・ラング
- レイフ・ファインズ
- マイケル・ガンボン
- ブレンダン・グリーソン
- アラン・リックマン
- マギー・スミス
- ティモシー・スポール
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