『ターミネーター4』(2009年/マックG)
テーマと意味をネタバレ考察・あらすじ・批評・レビュー
『ターミネーター4』(原題:Terminator Salvation/2009年)は、滅亡後の地球を舞台に、人類とスカイネットの戦いを描くSFアクション。ジョン・コナー(クリスチャン・ベイル)がレジスタンスを率い、半分人間・半分機械のマーカス(サム・ワーシントン)と出会う。AIによる支配と人間の意志の対立が、荒廃した世界で再び交錯する。監督はマックG、製作はウォーナー・ブラザース。シリーズ4作目として再起動され、第36回サターン賞で最優秀SF映画賞にノミネートされた。
マックGとAKB48、そして冷たい金属音
『ターミネーター4』(2009年)の監督にマックGが抜擢された瞬間、批評家たちは鼻で笑ったはずだ。
何しろ彼は、『チャーリーズ・エンジェル』(2000年)で見せたような、ポップでカラフル、かつフェティッシュな映像遊戯が持ち味の男。そんな彼が、まさかキャメロンの血と鉄の匂いが漂う、終末神話を継承することになるとは。
しかし、このねじれこそが本作の正体だ。実はマックGあ、大の日本通であり、秋葉原のライブハウスでAKB48を観劇し、村上隆とコラボレーションするような、極めてサブカル的で軽やかな感性の持ち主。そんな彼が本作で挑んだのは、皮肉にもキャメロン的な重量感の、デジタルではなく物理的な再現だった。
CG全盛の時代にあえて逆行するがごとく、実物大のターミネーターや巨大なセットを建造し、ブラッド・フィーデルが発明したあの「ダダンダンダダン」という金属的な心拍数を、産業廃棄物が軋むような冷たい音響へとアップデート。
映像設計は完全に『マッドマックス』以降のポスト・アポカリプス絵画であり、砂塵と爆炎に染まる空の質感は、職人的なこだわりを感じさせる。
しかし、そこに決定的な「重さ」が欠けている。それは、マックGが得意とするポップな現在性が、シリーズが宿命的に抱えていた神話的暗黒を希釈してしまったからだ。
金属の冷たさはあっても、運命の重さがない。彼のカメラは廃墟を美しく撮りすぎる。この美しすぎる終末こそが、キャメロンが持っていた汚濁と情念との決定的な断絶なのである。
クリスチャン・ベールの怒りと救世主の不在
本作の構造を致命的に複雑にしたのは、二人の男への焦点の分裂だ。人類の救世主ジョン・コナーと、死刑囚から半分人間・半分機械として甦ったマーカス・ライト。
前者を演じたのは、当時『ダークナイト』で絶頂期にいたクリスチャン・ベール。後者は、本作で一気にスターダムにのし上がったサム・ワーシントン。実は当初、ベールにはマーカス役がオファーされていたが、彼は「ジョン・コナーを演じなければ出ない」と主張し、脚本を大幅に書き換えさせたという経緯がある。
現場でベールが撮影監督にブチギレた録音テープが流出した事件は有名だが、あの「過剰なまでの真剣さ」は、迷走する物語を力技でねじ伏せようとする彼の焦燥の表れだったのではないか。
ジョン・コナーは本来、時間を超えて父を誕生させるという形而上のパラドックスを背負う、実存的な悲劇の象徴だ。しかしマックGは、そのSF的宿命論を捨て、直球のアクション映画としての現在性を選択した。
その結果、マーカスという「自分を人間だと信じている機械」のアイデンティティ・ドラマと、ジョンの救世主としての苦悩が融合せず、物語の焦点は終始曖昧なまま漂うことになる。
ジェームズ・キャメロンの『ターミネーター2』(1991年)が描いた「機械が人間性を学ぶ」という反転構造は、本作ではマーカスという個体の悲劇に矮小化され、シリーズ全体を貫く哲学的緊張感は霧散した。
シュワルツェネッガーという絶対的な神が不在の世界で、マックGが描き得たのは、神話の続きではなく、焼け跡で過去の記録(サラ・コナーのテープ)を再生し続ける「亡霊たちの記録」でしかなかったのだ。
デジタル・ゴーストの降臨──神話を失った映画の自己認識
クライマックス、我々はデジタル合成によって再現された、1984年当時の若きアーノルド・シュワルツェネッガーの姿を目撃する。
このT-800の登場は、劇場に驚きと、それ以上の不気味な違和感をもたらした。過去の栄光をサンプリングした、亡霊の出力。この瞬間、『ターミネーター4』は、自らが「神話を失った映画の自己認識」であることを露呈させる。かつての熱狂をデジタル処理で呼び戻そうとするハリウッドの業が、スクリーンに剥き出しになったのだ。
マックGはこの作品を通じて、ある種の希望を提示しようとしたのかもしれない。無限に続くシリーズという呪縛の中で、彼が描こうとしたのは「継承」ではなく「忘却」だ。
人間も機械も、すでに過去を記録することしかできない。記憶の断片が積み重なり、それ自体がプログラム化されていく現代において、『ターミネーター』というブランドはもはや未来の寓話ではなく、ノスタルジーという名の消費対象に転じている。
ジョン・コナーが廃墟に立ち尽くすラストショットは、映画というメディウムそのものの比喩に見える。オリジナルなき複製が繰り返される世界で、我々は何を信じて戦うのか。
そこにシュワルツェネッガーの物理的な不在を感じ取るとき、我々はようやく、キャメロンが始めたあの神話が本当はどこで終わっていたのかを、残酷なまでに見せつけられる。
この映画が残したのは、勝利のカタルシスではなく、砂塵の中に消えていく「かつての未来」への、乾いた鎮魂歌なのだ。
- 監督/マックG
- 脚本/ジョン・ブランカトー、マイケル・フェリス
- 製作/モリッツ・ボーマン、デレク・アンダーソン、ヴィクター・クビチェク、ジェフリー・シルヴァー
- 製作総指揮/ピーター・D・グレイヴス、ダン・リン、ジーン・オールグッド、ジョエル・B・マイケルズ、マリオ・F・カサール、アンドリュー・G・ヴァイナ
- 撮影/シェーン・ハールバット
- 音楽/ダニー・エルフマン
- 編集/コンラッド・バフ
- 美術/P・J・ラーセン
- 衣装/マイケル・ウィルキンソン
- ターミネーター4(2009年/アメリカ)
- ターミネーター(1984年/アメリカ)
- ターミネーター2(1991年/アメリカ)
- ターミネーター3(2003年/アメリカ)
- ターミネーター4(2009年/アメリカ)
- ターミネーター:新起動/ジェニシス(2015年/アメリカ)
- ターミネーター:ニュー・フェイト(2019年/アメリカ)
![ターミネーター4/マックG[DVD]](https://popmaster.jp/wp-content/uploads/81s8WuGCLyL._AC_SL1500_-e1759040473562.jpg)
![チャーリーズ・エンジェル/マックG[DVD]](https://popmaster.jp/wp-content/uploads/71xGLKc2aEL._AC_UL640_FMwebp_QL65_-e1771013129735.webp)
![ターミネーター2/ジェームズ・キャメロン[DVD]](https://popmaster.jp/wp-content/uploads/81Bk4WurPL._AC_SL1500_-e1724881194758.jpg)