悲劇的構造を演出しきれていない、マックGの悲劇
そもそもシュワルツェネッガーが、カリフォルニア州知事に就任して俳優を引退した瞬間から、『ターミネーター』シリーズには幕が下ろされたものと思い込んでいた。
ピーター・フォークがいなけりゃ『刑事コロンボ』は成立しないように、渥美清がいなけりゃ『男はつらいよ』が成立しないように、はたまた児玉清がいなけりゃ『パネルアタック25』が成立しないように、タイトルロールを失った映画が、いけしゃあしゃあと新作をリリースできる訳がないからだ。
しかーし!デジタル合成で若い頃のシュワルツェネッガーを蘇らすというトンデモな荒技で、『ターミネーター』第四章は何のてらいもなく公開されてしまった。
スカイネット率いる機械軍と、ジャッジメント・デイを生き延びた人類との、お互いの生存権をかけた闘い。かくして新3部作の序章は幕を開けたんである。
もともとは『ターミネーター3』(2003年)のジョナサン・モストウが引き続き手がけるはずが、ロケ地をめぐる意見の対立により降板。紆余曲折の末に白羽の矢が立ったのが、生粋のサブカル系監督・マックGだ。
ドリュー・バリモアが突如プロデューサー開眼し、「っていうかアンタ達が観たいのは、可愛い女の子と爆破とバイクでしょ?」と開き直ったかのような(しかし極めて正しい)戦略で『チャーリーズ・エンジェル』(2000年)、『チャーリーズ・エンジェル フルスロットル』(2003年)を製作したのは記憶に新しい。
その演出に抜擢されたのが、思い起こせばマックGだった。何せ『美少女戦士セーラームーン』好きであることはカミングアウトしているし、日本にプロモーションで来た際にはわざわざ秋葉原までAKB48のライブを観に行ったというんだから、筋金入りのオタ系である。
そんな彼が偉大なる『ターミネーター』シリーズの第4弾を引き受けたとあって、一体どんな映画になるのやらと恐る恐る観てみた訳だが、これが実にスタイリッシュ。
ジャッジメント・デイ以降、荒廃した世界でスカイネットと戦う人類という構図は、ビジュアル的にはもうほとんど『マッドマックス』なんだが、マックGはソリッドでシャープな映像設計を施すことによって、ハードなSF観を構築している。しかしながら、僕的にはこの映画に全然ノレなかった口でありまして、シリーズの中では最も期待はずれな作品でした。
巷の噂では、『ライ麦畑でつかまえて』のJ.D.サリンジャーがこの映画を手放しで激賞したとのことだが、巨匠すいません!残念ながら自分には巨匠の気持ちがさっぱり分かりません!
そもそも人類の救世主ジョン・コナーと、半分人間・半分ターミネーターという中途半端なケンタウルス的設定のマーカス・ライトという二人の人間にスポットライトを当ててしまったため、物語の力点がビミョーに分散しているのがマイナス。
人類の勝利のためには、自分の父親カイル・リースを(ターミネターに殺害されると分かっていながら)20世紀に送り込まなくてはならないという、ジョン・コナーの心的パラドックスが全く顕在化してこないのも問題。マックGは悲劇的構造を有するこの映画を、演出しきれていないのだ。
『ターミネーター2』(1991年)の後日譚としてTVシリーズ『ターミネーター サラ・コナー・クロニクルズ』が製作されるなど、もはや『ターミネーター』は『スター・ウォーズ』ばりにスピン・オフの巣窟となってしまった感がある。
シュワルツェネッガーが人類をオニのように追いかまわす日々はもう戻ってこない。スカイネット対人類という、『マトリックス』的世界が今や物語のメインストーリーに回収されている。
正直、僕は今後の展開にはあまり期待できないんですが。
- 原題/Terminator Salvation
- 製作年/2009年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/114分
- 監督/マックG
- 製作/モリッツ・ボーマン、デレク・アンダーソン、ヴィクター・クビチェク、ジェフリー・シルヴァー
- 製作総指揮/ピーター・D・グレイヴス、ダン・リン、ジーン・オールグッド、ジョエル・B・マイケルズ、マリオ・F・カサール、アンドリュー・G・ヴァイナ
- 脚本/ジョン・ブランカトー、マイケル・フェリス
- 撮影/シェーン・ハールバット
- 衣装/マイケル・ウィルキンソン
- 編集/コンラッド・バフ
- 音楽/ダニー・エルフマン
- クリスチャン・ベイル
- サム・ワーシントン
- アントン・イェルチン
- ムーン・ブラッドグッド
- コモン バーンズ
- ブライス・ダラス・ハワード
- ジェーン・アレクサンダー
- ジェイダグレイス
- ヘレナ・ボナム=カーター
- マイケル・アイアンサイド
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