プロメテウス/リドリー・スコット

プロメテウス [Blu-ray]

圧倒的求心力のある映像と、意味不明&説明不足のストーリーテリング

【思いっきりネタをばらしているので、未見の方はご注意ください。】

リドリー・スコットは、ストロングポイントとウィークポイントが極端に混在している、超偏向作家だ。

野球選手で例えるなら打てるツボが決まっていて、それ以外のコースに投げられると全て三振というタイプ。神話的喚起力を呼び覚ますビジュアル・センスは並外れているのだが、ストーリーテリングが下手すぎるため、お話がさっぱり分からない、という致命的欠陥を抱えている(映画監督としてそれどーなんだ、という気もするが)。

しかし、どうやらリドリー・スコットは自分のウィークポイントを理解していないらしい。密室系SFホラーという単純プロットゆえに大成功をおさめた『エイリアン』(1979)、説明不足ゆえに熱狂的ファンが“行間を捕捉する”ことでカルト化した『ブレードランナー』(1982年)まではまだ良かった。

それ以降も、節操なくあらゆるジャンルに手を出しては、話下手が露呈して目も当てられない出来になるという、悪循環を繰り返してしまった。『テルマ&ルイーズ』(1991)、『グラディエーター』(2000)を除けば、’90年以降のフィルモグラフィーは凡作の嵐と言わざる得ないだろう。

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『エイリアン』(リドリー・スコット)

長年の不調に加え、実弟の映画監督トニー・スコットが突然の自殺。心身ともに疲弊していたリドリー・スコットの元に舞い込んだ企画が、彼を一躍人気映画監督に押し上げた『エイリアン』のプリクエル(前日譚)。まさに『プロメテウス』(2012)は、リドリー・スコットのストロングポイントを全面発揮できる、念願のプロジェクトだったんである。

そもそもプロメテウスとは、ギリシア神話に登場するティーターンの一柱であり、イーアペトスの子供で、アトラース、メノイティオス、エピメーテウスと兄弟で、「デウカリオーンの洪水」で知られるデウカリオーンの父にあたる存在である。

自分で書いていてもさっぱり分からんけど。超簡単に言えば、天界の火を人類に与えた神様のことだ。ゴッド・オブ・ゴッドのゼウスが火を取り上げ、極寒に震える人類を哀れんだプロメテウスが、“炎と鍛冶の神”ヘーパイストスの炉でオオイキョウに火をつけ、それを人類に渡した、とされている。

プロメテウスとは人類の救世主。本作も、「我々は一体どこから来たのか?」という、人類誕生の起源が映画の主題になっており、なかなか哲学的なモチーフをはらんでいる。

単純な『エイリアン』の前日譚ではないだけに、リドリー・スコットのストーリーテリング力不足が露呈する可能性が大。その懸念は図らずも的中してしまった。

陶酔的な映像美と壮大なテーマを扱っているものの、『プロメテウス』は世紀のバカ映画。理解不能シーンの連続に、観客の脳内はクエスチョンマークだらけ。

  1. アンドロイドのデヴィッド(マイケル・ファスベンダー)は、どうしてあんなに宇宙船のことを熟知しているの?
  2. デヴィッドが謎の液体をホロウェイ(ローガン・マーシャル=グリーン)に飲ませた理由は?
  3. メレディス(シャーリーズ・セロン)は本当に人間だったの?
  4. 置き去りにされた2人組はなぜ凶暴化したの?
  5. 社長のピーター・ウェイランド(ガイ・ピアース)は、なぜ生きていることを隠してプロメテウス号に乗り込んだの?

…etc。

この映画は全編ツッコミどころ満載。全自動手術台で腹からエイリアンの幼虫を取り出したばかりのエリザベス・ショウ(ノオミ・ラパス)が、直後に走りまわるシーンには思わず失笑をもらしてしまう。

しかし!リドリー巨匠のビジュアル・センスが、70歳を過ぎてなお第一線にあることもまた否定できないだろう。デヴィッドが映画『アラビアのロレンス』(1962)真似るシーンなんぞ、それ自体全く意味を成さないものの、自己陶酔的な美しさに満ちている。

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『アラビアのロレンス』(デヴィッド・リーン)

圧倒的求心力のある映像と、意味不明&説明不足のストーリーテリング。これほどバランスの悪い映画はないが、これぞリドリー・スコット流。その異形さゆえに、僕は『プロメテウス』を偏愛してしまうんである。

DATA
  • 原題/Prometheus
  • 製作年/2012年
  • 製作国/アメリカ
  • 上映時間/123分
STAFF
  • 監督/リドリー・スコット
  • 製作/リドリー・スコット、デヴィッド・ガイラー、ウォルター・ヒル
  • 製作総指揮/マイケル・コスティガン、マーク・ハッファム、マイケル・エレンバーグ、デイモン・リンデロフ
  • 脚本/ジョン・スペイツ、デイモン・リンデロフ
  • 撮影/ダリウス・ウォルスキー
  • プロダクションデザイン/アーサー・マックス
  • 衣装/ジャンティ・イェーツ
  • 編集/ピエトロ・スカリア
  • 音楽/マルク・ストライテンフェルト
CAST
  • ノオミ・ラパス
  • マイケル・ファスベンダー
  • シャーリーズ・セロン
  • イドリス・エルバ
  • ガイ・ピアース
  • ローガン・マーシャル=グリーン
  • ショーン・ハリス
  • レイフ・スポール
  • イーモン・エリオット
  • ベネディクト・ウォン
  • ケイト・ディッキー
  • パトリック・ウィルソン

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