2026/3/19

『ジョーズ』(1975)徹底解説|スピルバーグが発明したブロックバスターの原点

『ジョーズ』(1975年/スティーヴン・スピルバーグ)
テーマと意味をネタバレ考察・あらすじ・批評・レビュー

10段階評価
10
GREAT

概要

『ジョーズ』(原題:Jaws/1975年)は、スティーヴン・スピルバーグ監督がピーター・ベンチリーの小説を映画化し、世界中にサメ映画の恐怖を植え付けたパニック・スリラーである。舞台は海水浴客で賑わうアミティ島。巨大なホオジロザメに対峙するため、警察署長ブロディ(ロイ・シャイダー)、海洋学者フーパー(リチャード・ドレイファス)、サメ漁師クイント(ロバート・ショウ)という立場の異なる三人が団結し、大海原へ挑む。第48回アカデミー賞ではヴァーナ・フィールズによる編集、ジョン・ウィリアムズの劇伴、さらに録音の3部門で受賞。サメを直接見せない演出手法が観客の想像力を刺激し、後の娯楽映画の興行形態を決定づけたブロックバスターの原点。

受賞歴
  • 1975年ナショナル・ボード・オブ・レビュー:作品賞トップ10
  • 第18回ブルーリボン賞:外国作品賞受賞
  • 第49回キネマ旬報(外国映画):第3位
目次

姿を見せない恐怖と、計算し尽くされた序盤

こんばんわ、竹島ルイです。今日は皆さんと一緒にスティーヴン・スピルバーグの傑作『ジョーズ』を観賞していきましょう。スティーヴン・スピルバーグの映画作家としての素晴らしさを知るには、最も良いテキストではないでしょうか。

0分
オープニング
3分
海で泳いでいた女性がサメに襲われる

なかなかサメをみせない映画で、ファーストシーンが「サメの視点からの映像」というのは、なかなかシャレてますね。以降、人が襲われるシーンでは必ず「サメの視点からの映像」が挿入されます。これはあとでドラマを盛り上げる伏線になります。

実はこれ、意図した演出以上に、撮影用の機械式サメが塩水で故障し続け、まともに動かなかったという切実な事情から生まれた怪我の功名なんです。サメが映せないなら、視点ショットと音楽で恐怖を煽るしかない。あの有名な「ダダン、ダダン……」という心臓の鼓動のような2音の旋律と共に、観客の想像力を極限まで引き出すヒッチコック的なサスペンスへと昇華されています。

ちなみに、この「サメの姿を見せずに恐怖を煽る」見事なテンポ感は、編集を担当したヴァーナ・フィールズ(本作でアカデミー賞を受賞)の功績が非常に大きいです。撮影素材の段階では間延びしていたシーンを彼女がバッサリと切り捨てることで、あの伝説的なサスペンスが生まれました。スティーヴン・スピルバーグ自身も彼女を「マザー・カッター」と呼んで全幅の信頼を寄せていたほどです。

4分
ロイ・シャイダー演じる警察署長の一家団欒のシーン。電話で浜辺に水死体があがったという報告を受ける
7分
浜辺での検死
8分
署長室に死因はサメによる襲撃との報告が入る
10分
署長、すぐに海岸を封鎖しようとするが、市長らが「あの報告は間違いだった」と撤回するように指示

ロイ・シャイダーはニューヨークから来た他所ものという設定なんですね。そんな彼が警察署長として島民の人命を預からなくてはならない、という葛藤がドラマに奥行きを与えています。まったく危機管理能力の欠如している市長もいい味だしてますね(よく見ると市長の着ているジャケットには、船のイカリの模様がびっしり入っていて、彼の強欲な商業主義を皮肉っています)。

署長夫人、あんまり可愛くないです。

22分
署長、サメのお勉強。奥さん、子供にマジキレ
25分
夜中のサメ釣り。男たち、サメに襲われ危機一髪
27分
懸賞金目当てにサメ退治に向かう一団。リチャード・ドレイファス演じるサメ学者登場
30分
ドレイファス、遺体を調べてサメの襲撃によるものと認定
32分
巨大なサメを捕獲。署長、未亡人からビンタをくらう
42分
サメの解剖、そのまま海へ
47分
漂流船と遺体の発見

船底の穴から突然生首が飛び出してくる有名なジャンプスケアですが、あれは試写での観客の悲鳴が足りないと感じたスティーヴン・スピルバーグが、自腹を切って編集者の自宅プールで追加撮影したという執念の産物です。

49分
市長との大激論。でも結局海開き

ロイ・シャイダーとリチャード・ドレイファスの奇妙な友情が、ものの20分ほどで芽生えてしまいます。これも「市長」という対立軸があってこそ。スティーヴン・スピルバーグは決して人間の描けない作家ではありません。

海という密室。男たちのドラマとアドリブ劇

52分
アミティ島に海水浴客がたくさんやってくる
58分
少年たちがサメの格好でイタズラ。いい迷惑
61分
本物のジョーズ登場。海岸は大パニックに
65分
署長、ロバート・ショーとサメ狩りの契約
71分
三人、船に乗って海へ出航

いよいよドラマは佳境へ。本物のジョーズが登場するあたりの演出、音の使い方は見事に緊迫感をあおっていますね。特に、絶対に安全だと思われていた「浅瀬の入り江」にサメが侵入してくる絶望感。スティーヴン・スピルバーグはこうした群衆のパニック描写・モブシーンでも非凡な才能をみせつけてくれます。

余談ですが、本作は「本物の海上で撮影された初の本格的なハリウッド大作」です。それまでの海洋映画は巨大なプールで撮影されるのが常識でしたが、若きスティーヴン・スピルバーグはリアリティを求めてロケを強行。結果、天候不良や船の浸水トラブルが多発し、当初55日だった撮影日数は159日まで延び、予算も倍以上に膨れ上がりました。

スタッフの間では「Flaws(欠陥)」と皮肉られていた現場の極限状態が、映像のヒリヒリした緊迫感に直結しているんですね。

73分
オルカ号の船上。ロバート・ショーがサメを釣る?
80分
ジョーズ、突然姿を現す。「もっと大きな船が必要だ」。その大きさに愕然とする三人
83分
ジョーズとの格闘。樽つきのモリを撃ち込む
85分
夕食。三人のキズ自慢、そしてロバート・ショーの思い出話

ロバート・ショーが過去を語るシーンは、スティーヴン・スピルバーグも特にお気に入りのシーンらしいです。しかしワガママなロバート・ショーは、自分のセリフをほとんど自分で書き換えてしまったそうで、スティーヴン・スピルバーグも相当気を使ったでしょうねえ。

彼が語るのは、第二次世界大戦中に原爆のパーツを運搬し、日本軍の潜水艦に沈められたインディアナポリス号の実話。救助を待つ間、兵士たちが次々とサメに喰われていったという地獄の回想があるからこそ、単なるモンスターパニックが「過去の亡霊との対決」という神話的な深みを持つことになります。

余談ですが、この夜の海でのシーンの背後に、本物の流れ星がスッと流れる奇跡的なショットがそのまま使われているのも見逃せません。

映画的興奮の頂点へ。生き残るのは誰か?

92分
夜の闇の中、樽がゆっくりと接近
95分
朝になって、樽が海上に浮上する
99分
再びジョーズとの格闘。二つ目の樽えお撃ち込んだにもかかわらず、サメは海中に身を沈めてしまう
100分
樽が海上に浮上。綱をたぐりよせて船に縛り付ける三人。しかしジョーズがものすごい力で船を引っ張ってしまう
103分
綱を怪力でもぎりとってしまうジョーズ。船は浅瀬に逃げるが、サメは追いかけてくる。…こわい…
106分
黒い煙を吐き出すオルカ号。しかもエンジンまで出火

たしか映画監督の黒沢清が手塚眞との対談で言ってたんですが、圧倒的なサメのスピードをみせつけられてリチャード・ドレイファスが「はやいな」とか言ってニヤリとする。主役の三人が危機的状況に陥っているというのに、何故か「はしゃいでしまう」というこの感覚が好きなんだ、みたいなことを発言していました。

僕も全く同感です。物語としての進行とはまた別の、純粋に映画的な興奮があるんですね。そして、姿を見せないサメの巨大さと異常な力強さを「海面を猛スピードで引きずり回される黄色い樽」だけで表現しきった視覚的アイデアも秀逸の極みです。

108分
完全に立ち往生したオルカ号。沈没寸前
110分
毒の入った注射でジョーズを倒そうと、海中にオリを沈める。リチャード・ドレイファス、緊張のあまりツバも出ない
111分
ジョーズがオリに近付き大暴れ。注射を落としてしまったリチャード・ドレイファス、パニックになりながらも何とか脱出
115分
船上に残った二人がオリを引き上げるも、誰も居ず。と、突然ジョーズがオルカ号を襲撃!!ロバート・ショー、ジョーズに食いつかれ、息絶える。アーメン

いやー死んじゃいました、ロバート・ショー。はっきりいってこのシーン、メチャクチャ恐いです。スティーヴン・スピルバーグはこういった暴力描写には天才的な冴えをみせますね。やはりこの人は、資質的にサスペンス畑の作家だと思います。

ちなみに、オリから逃げ出したリチャード・ドレイファスですが、ピーター・ベンチリーの原作小説ではここで無残に食い殺されてしまいます。映画版で彼が生き延びたのは、オーストラリアの海で別班が撮影した、本物のホオジロザメが空っぽのケージを破壊するド迫力映像をどうしても本編で使いたくなり、急遽「フーパーは岩陰に隠れて助かった」とシナリオを変更したからなんです。

116分
船室に逃げた署長、ジョーズの口にボンベを放り込む。海中に消えるジョーズ。署長、すっかり傾いたオルカ号のマストによじ登り、ライフルでジョーズを狙う
118分
弾が見事にボンベに命中!!ジョーズは木っ端微塵に

見事にボンベに命中してジョーズが木っ端微塵になり、海中へ沈んでいく際、不思議な「恐竜の咆哮」のような轟音が響きます。実はこれ、スティーヴン・スピルバーグの出世作『激突!』(1971年)で殺人トラックが崖から転落する際の効果音と全く同じものを使用しています。

激突!
スティーヴン・スピルバーグ

スティーヴン・スピルバーグにとって、このサメはただの生物ではなく、理不尽に襲いかかってくる「絶対的な怪物」のメタファーだったことがよく分かる仕掛けです。

119分
今さらながらリチャード・ドレイファスが呑気に登場、お互いの生存を喜びあう。樽につかまって岸辺に向かう二人
121分
海岸にたどりつく二人。エンドロール

二人が樽につかまって泳ぎながら、「海が嫌いだった」なんてロイ・シャイダーが言ったりするシーン、いいですね。

ちなみに、この奇妙なバディを生み出したキャスティングにも裏話があります。ロイ・シャイダーはパーティで偶然スティーヴン・スピルバーグの愚痴(サメが暴れる映画を撮るんだ云々)を立ち聞きして自ら売り込み、リチャード・ドレイファスは一度オファーを断ったものの、直前に出演した自分の映画の演技に絶望し「このままじゃ干される! 絶対にヒットする大作に出なきゃ!」と慌てて電話をかけ直して役を掴み取りました。そんな彼らの泥臭い背景も、キャラクターの魅力に繋がっているのかもしれません。

そして、想像を絶するような恐怖体験をしてきた二人を温かく優しく包み込むような、ジョン・ウィリアムズの音楽。海は時には猛々しく、時には穏やかな顔をみせてくれるのです。観るものをホッとさせてくれる、素晴らしいエンディングですねえ。

本作は、全米で一斉公開して巨額の宣伝費を投じる「夏休み映画(ブロックバスター)」という興行形態を作り出した記念碑的作品でもあります。弱冠27歳の青年が、映画の作り方だけでなく「見せ方」まで変えてしまった。まさに映画の歴史が動いた瞬間だったんですね。

…えー、皆さんいかがだったでしょうか。今日は『ジョーズ』を通してスティーヴン・スピルバーグのスゴさが確認できましたね。ではまたお会いしましょう。

スティーヴン・スピルバーグ 監督作品レビュー