ファンタジー映画の新しいバイブルとなった、空前絶後の大傑作
ファンタジーとは、悪しきものに敢然と立ち向かう勇気であり、創造力によって絶望的状況から光を見いだす力である。
ホビットたちは指輪を捨てるという苦難の旅に出たが、脚本・製作・監督を務めたピーター・ジャクソンにとっても、胃が痛むような日々であったことは想像に難くない。ニュージーランド生まれのオタク監督が、世界を向こうに回して新たな神話を語ろうというのだから。
僕は『ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔』(2002年)のレビューで、「ピーター・ジャクソンの真価は、最終作で明らかになるだろう」と書いたが、審判はついに下された。『ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還』(2004年)は、空前絶後の大傑作である!
とにかく全てが凄い。全てが圧倒的である。ストーリーは骨太で重層的だし、迫力ある映像は観るものにプリミティヴな快感を与える。
綿密に練られたプロダクト・デザインは華麗だし(ミナス・ティリスは実に荘厳である)、レゴラスを演じるオーランド・ブルームは山咲トオルにクリソツである。僕が少年の頃に夢想していた神話が、血と肉を得て完璧に再現された。
人間、ウルク・ハイ、ナズグルが入り乱れるゴンドールでの合戦シーンは、『スター・ウォーズ帝国の逆襲 』の惑星ホスの戦闘シーンを彷彿とさせる。ハラドリムが操る巨象ムマキルは、帝国軍が操るスノーウォーカーのオマージュだ。
かつて、モーション・コントロールによって縦横無尽に移動することが可能となったカメラワークは、VFXの格段の進歩により、ダイナミズムが増した。
ジョージ・ルーカスが『スター・ウォーズ』トリロジーで世界を熱狂させた奇跡は、21世紀に到達した今、神話の原点ともいえる『指輪物語』によって甦ったのである。
そして何より、『王の帰還』は泣けるのだ。小生もトシをとったせいか、後半は涙腺が緩みっぱなし。その元凶はサムである。『ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔』でもそうだったが、どんなに危機的状況に陥ってもこの男は「世の中には命を懸けて守らなければならないものがある」と、ロックンローラーなセリフをはいて、観客をホロリとさせやがるのである。
特に滅びの山で、「指輪を背負うことはできないけど、あなたを背負うことはできます」と叫ぶシーンには涙がこぼれた。 『グーニーズ』(1985年)や『トイ・ソルジャー』(1991年)など、数々の冒険を経験してきたサムことショーン・アスティンのセリフだけに説得力がありまくり。
長い冒険を経て遂に指輪を葬ったフロドは、「It’s Done」とつぶやいたが、『ロード・オブ・ザ・リング』も第3作を迎えて「It’s Done」となってしまった。
本作は、興行的にも批評的にも大成功を収める。アカデミー賞では、『ベン・ハー』(1959年)と『タイタニック』(1997年)に並んで史上最多受賞数となる作品賞、監督賞、脚色賞、作曲賞、歌曲賞、美術賞、衣裳デザイン賞、メイクアップ賞、視覚効果賞、音響賞、編集賞の11部門を受賞。映画史にその名を刻む、ファンタジー映画の最高到達点となった。
これから世界は何に期待して明日を過ごしていけばいいのか。これ以上の物語を、我々は期待していいのだろうか。とにかく断言できるのは、『ロード・オブ・ザ・リング』はファンタジー映画の新しいバイブルとなったことだ。
偉大な王と共に、「ファンタジー」もまた大いなる帰還を果たした。
- 原題/The Lord Of The Rings : The Return Of The King
- 製作年/2004年
- 製作国/アメリカ、ニュージーランド
- 上映時間/203分
- 監督/ピーター・ジャクソン
- 脚本/ピーター・ジャクソン
- 製作/ピーター・ジャクソン、バリー・M・オズボーン、フラン・ウォルシュ、ティム・サンダース
- 原作/J・R・R・トールキン
- 脚本/フラン・ウォルシュ、フィリッパ・ボウエン
- 撮影/アンドリュー・レスニー
- 音楽/ハワード・ショア
- イライジャ・ウッド
- イアン・マッケラン
- リヴ・タイラー
- ヴィーゴ・モーテンセン
- ショーン・アスティン
- ケイト・ブランシェット
- バーナード・ヒル
- オーランド・ブルーム
- クリストファー・リー
- ミランダ・オットー
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