フリッツ・ラング『メトロポリス』にも近接した、怪奇科学映画
【思いっきりネタをばらしているので、未見の方はご注意ください。】
毎年クリスマスに何の映画を観るかが僕の重要テーマな訳ですが、2006年の『犬神家の一族』に続いて、2007年は『魍魎の匣』を観に行きました。
どう考えてもデートムービーじゃないし、確実にモテないチョイスだと思われますが、そんなのいーのだ!カンケーないのだ!だって田中麗奈ちゃんが超カワイかったんだもん。
成瀬巳喜男監督作『稲妻』(1952年)の高峰秀子をイメージしたという佇まいは、頭のてっぺんから爪先まで明朗・快活・才色兼備なモダンガール。麗奈ちゃんファンの小生も大満足なり。
では、肝心のお話はどうなのか?プレスリリースなどでは、この作品を「超高速ミステリー」と謳っているようだが、僕はこれに半分は同意。超高速なのは間違いない。
『金融腐蝕列島〔呪縛〕』(1999年)、『突入せよ! あさま山荘事件』(2002年)という過去の作品と同様に、原田眞人は圧倒的な情報量をハリウッドムービーばりのカット割り、矢継ぎ早に展開されるマシンガントークで、テンポ良く消化していく。
無論、あまりの超高速テンポに観客がフォローしきれないパートもある訳で。特に美作教授(柄本明)がどんなキャラなのか、その背景がストーリーから完全にこぼれてしまっている感は否めない。
しかし、京極夏彦原作の『魍魎の匣』は本質的にミステリーではなく、海野十三の怪奇科学小説のごとき意匠をまとっている。ドイツ表現主義的映像美は、フリッツ・ラングの『メトロポリス』(1926)に近接しているし、匣と一体となった宮藤官九郎の造形は、ほとんど塚本晋也の『鉄男』だ。
そもそもギガンティックな建造物を人体と見なして、不老不死の人造人間を造り上げんとするフランケンシュタインのごとき企みが、極めて怪奇科学小説的。
実相寺昭雄の『姑獲鳥の夏』を箱庭的な本格ミステリーとするなら、大規模な上海ロケを敢行した『魍魎の匣』は、スケール感のある空想科学映画なんである。ビジュアルで勝負できるぶんだけ、『姑獲鳥の夏』よりもシネマティックな題材なのは間違いない。
原作では加菜子と頼子の同性愛的友情、揺れ動く心情の機微を大きくページを割いて描かれていたが、映画では大胆にオミット。逆に浮かび上がるのは、二人の少女が見せる健康的な佇まい=生のイメージではなく、手足が無惨に切断された死のイメージ。
「四肢を切断された美女」というモチーフといえば、デヴィッド・リンチの愛娘ジェニファー・リンチが監督した『ボクシング・ヘレナ』(1993年)。一時期リンチの私生活のパートナーでもあった、シェリリン・フェンの手足のない姿には、倫理を超越した病理的なエロティシズムが隠蔽されていた。
だが、いかにもセックスシンボルといった趣きのシェリリン・フェンとは違い(僕はこの女優好きなんですが)、トルソーと化した加菜子が、穏やかな表情で「ほぅ」とつぶやくラストシーンは、より鮮烈でよりエロティックだ。
加菜子を演じる寺島咲の未成熟な肢体は、石膏によって補強され、変形されている。“人体を変形させる”というSF的意匠とエロティシズムの融合として、このラストシーンは必然であった。
この姿に魅入られた者は、匣にも魅入られた者なんである。誰か僕のために匣に入ってください。
- 製作年/2007年
- 製作国/日本
- 上映時間/133分
- 監督/原田眞人
- 脚本/原田眞人
- プロデューサー/小椋悟、柴田一成、井上潔
- 撮影/榊島克己
- 照明/高屋斎
- 美術/池谷仙克
- 音楽/村松崇継
- 助監督/谷口正行
- 装飾/大坂和美
- 録音/矢野正人
- 編集/須永弘志
- 効果/柴崎憲治
- 堤真一
- 椎名桔平
- 阿部寛
- 宮迫博之
- 田中麗奈
- 篠原涼子
- 黒木瞳
- 笹野高史
- 寺島咲
- 谷村美月
- 宮藤官九郎
- 柄本明
最近のコメント