金太郎飴のごとく、どこを切ってもオードリー・ヘップバーン
長い間、『ローマの休日』(1953年)の脚本はイアン・マクレラン・ハンターが執筆したものと考えられていた。
しかし、実際にシナリオを書き上げたのはダルトン・トランボ。彼は『恋愛手帖』(1940年)や『東京上空三十秒』(1944年)などで知られる名脚本家で、’40年代半ばにフランク・キャプラの要請で書いたものの、企画が頓挫してしまい宙に浮いてしまっていた。
やがて’50年代に入り、ウィリアム・ワイラー監督で改めて映画化するプランが立ち上がるものの、バリバリの共産主義者で激しい赤狩りの弾圧に晒されていたダルトン・トランボに、すでにハリウッドでの居場所はなし。
そこで彼は一計を案じ、友人の脚本家イアン・マクレラン・ハンターの名前を借りて、映画にクレジットさせてしまう(このあたりの経緯は、『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(2015年)に詳しいです)。身分を偽ってローマの街に繰り出すアン王女に、自分自身を重ね合わせたことは想像に難くない。
当時無名のオードリー・ヘップバーンが世界的スターになるきっかけとなった『ローマの休日』だが、最初にアン役候補に挙がっていたのはエリザベス・テイラーやジーン・シモンズというスター女優ばかり。
しかしグレゴリー・ペックが相手役となる新聞記者ジョーを演じることが決まると、アン王女にスター女優を使う必要がなくなり、若手女優を抜擢するオーディションが大々的に開かれたのである(ちなみに、グレゴリー・ペックは反戦を唱え、ダルトン・トランボらへの弾圧に断固反対した人物でもある)。
とにかく、この映画におけるオードリー・ヘップバーンは可愛い。ひたすら可愛い。ちょっと神がかっている可愛さである。彼女は世界的に愛されている女優だが、日本では特にその人気が高い。
おそらくその最大の理由は「セックスを感じさせない」女優だからだろう。性に対して厳格な禁忌を強いる我々大和民族は、つつましく清楚な彼女に、真の大和撫子を見出す(対極にいるのがマリリン・モンローだ)。そんな気品と処女性を併せ持つ彼女にプリンセス役はまさにうってつけ。
オードリー・ヘップバーンという女優は不思議なくらい現実感がない。細身の身体でジバンジーのファッションを着こなし、小動物のようにキュートさを振りまく彼女は、アニメ的萌え要素に満ち満ちている。
彼女の芝居はアクターズ・スタジオ的なリアリズムにあらず。彼女の立ち振る舞いはどこまでもフォトジェニックで、非現実的なのだ。故に、一国の王女と新聞記者の恋というファンタジー設定が、説得力を持って強度を増す。
美容院でショートカットに散髪してもらって御満悦のオードリー、スペイン広場でアイスクリームをペロリと食べるオードリー、真実の口にオッカナビックリのオードリー、別れ難い別離に涙を浮かべるオードリー。金太郎飴のごとく、どこを切ってもオードリーだらけ。
様々な表情をスクリーンに浮かべてみせる彼女に、ただただ我々はウットリとするのみ。
- 原題/Roman Holiday
- 製作年/1953年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/118分
- 監督/ウィリアム・ワイラー
- 製作/ウィリアム・ワイラー
- 原作/アイアン・マクラレン・ハンター
- 脚本/アイアン・マクラレン・ハンター、ジョン・ダイトン
- 撮影/フランク・F・プラナー、アンリ・アルカン
- 美術/ハル・ペレイラ、ウォルター・タイラー
- 編集/ロバート・スウィンク
- 音楽/ジョルジュ・オーリック
- グレゴリー・ペック
- オードリー・ヘップバーン
- エディ・アルバート
- ハートリー・パワー
- ハーコート・ウィリアムス
- マーガレット・ローリングス
- テュリオ・カルミナティ
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