可憐で清純なオードリー・ヘップバーン嬢をかどわかすために作られたロマンチック・コメディー
『情婦』(1957)といい、この『昼下りの情事』(1957)といい、ビリー・ワイルダー作品のタイトルがムダにエロいのは何でだ。だって情事だよ!淫靡とか卑猥とかそんなレベルではなく、行為そのまんまのジョージだよ!昼下りからジョージだよ!いやー辛抱たまりませんなあ。
という訳で、悪知恵の働くビリー・ワイルダー&I・A・L・ダイアモンドの親父コンビが、可憐で清純なオードリー・ヘップバーン嬢をかどわかすために、ハリウッド・スタアのゲイリー・クーパーを相手役に招いて、そのハートを撃ち抜かんとするロマンチック・コメディーであります。
当初は、主役のフランク役にケーリー・グラントを熱望していたが、残念ながら出演は叶わず。親父コンビは気を取り直して、ゲイリー・クーパーに“男の理想像”を仮託した。
内容的には、「初老のプレイボーイ&彼を翻弄しようと背伸する女の子の話」なんだが、その裏では腹黒親父の策略が張り巡らされている。世界で一番キュートなヘップバーン嬢をノックアウトさせるために、二人が用意した手管は何か。
まずはパリという舞台設定である。めくるめく恋の街で、シャンパンの一杯や二杯ひっかければ、そりゃアバンチュールも燃え盛るってもんだろう。海千山千のクーパーの甘いささやき、魅惑のダンス。リッツホテルの14号室で、オードリー嬢は完全に恋の奴隷状態に。
そしてトドメが、ジプシーバンドが奏でる「魅惑のワルツ」のメロディーだ。時にはサウナにまで出没する彼らの演奏が、二人のラヴ・アフェアーをホットに盛り上げる。やっぱ女の子を口説く際にBGMって大切な要素なんですね。
大学時代に、僕の部屋に女子を招いたとき、何を血迷ったかキョンキョンやら南野陽子やらCocoやらアイドル・ヒット・ナンバーを再生して、完全にドン引きされたことを覚えている。何であんな選曲したんだろ。
ビリー・ワイルダー&I・A・L・ダイアモンドは、ヘップバーンを完全制服するために、彼女の役柄(アリアンヌ)を恋する乙女キャラで統一。白バラを冷蔵庫に大切に保管していたり、偽りの男性遍歴をテープに吹き込んだり、その背伸び感はひたすら意地らしい。
小道具として効いているのが、彼女がいつも抱えているチェロ。やせぎすの彼女が重いケースを抱えてホテルに直参する姿には、乙女の可憐さが垣間見える訳で、このあたりの計算は実に抜かりなし。
『君の名は』(1953年)の「真知子巻き」ならぬ、「アリアーヌ巻き」もカワユス。かくしてこの親父コンビは、世界の恋人オードリー・ヘップバーンを、我が手中におさめることに成功したのだ。
ちなみに僕は、プレイボーイのゲーリー・クーパーに全く自己投影できません。昔高校生の頃に『昼下りの情事』を観たときは、気は優しいがイケてない音楽学校の同級生ミシェルに感情移入したものだ。
名実ともにオッサンとなった現在この映画を観ても、やっぱりゲーリー・クーパーよりもミシェルに肩入れにしてしまう。どーにも僕の童貞気質は今だに改善されていないようである。
- 原題/Love in the Afternoon
- 製作年/1957年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/134分
- 監督/ビリー・ワイルダー
- 製作/ビリー・ワイルダー
- 原作/クロード・アネ
- 脚本/ビリー・ワイルダー、I・A・L・ダイアモンド
- 撮影/ウィリアム・C・メラー
- 音楽/フランツ・ワックスマン
- 衣装/ユベール・ド・ジバンシー
- オードリー・ヘプバーン
- ゲイリー・クーパー
- モーリス・シュヴァリエ
- ジョン・マッギーヴァー
- ヴァン・ドード
- リーゼ・ボウルディン
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