凶悪/白石和彌

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山田孝之の背後で、リリー・フランキーとピエール瀧が薄気味悪い笑顔を浮かべ、「凶悪」の2文字が怪しく踊るポスター。

目撃した千代田線・新御茶ノ水駅改札口の、のんびりした風景とは不釣り合いなほど、不穏な空気がダダ漏れ!僕は一目みるなり、「こりゃマスト・ウォッチ・ムービー!」と確信。いそいそと映画館に足を向けたんである。

僕にとってリリー・フランキーとピエール瀧は、“悪い大人”の代表である。悪いといっても、悪人という意味ではない。

映画、音楽、テレビ、演劇といったポップカルチャーの海を、“大人の悪ふざけ”の延長線的スタンスで泳ぎ続ける才人、という意味である。

その“大人の悪ふざけ”感こそ、この『凶悪』の成功の最大のポイント。まるで子供のような屈託のなさで、おぞましい凶行に手を汚す姿が、この上なくヴィヴィッドなのだ。

かつてスタンリー・キューブリックが、『時計じかけのオレンジ』(1971年)で証明したように、“暴力とは快楽”である。『凶悪』は、それを大上段のテーマとして掲げている。

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これが長編映画2作目となる白石和彌監督は、リリー&ピエールが酒を飲みながら殺人を犯すシーンで、「いつも2人が飲んでいる感じでお願いします」と指示を出したらしい。

目を覆いたくなる凶行も、酒飲みのワルノリと変わりなし!そんな人間の残酷面を暴き出すにあたって、“悪い大人”の代表であるリリー&ピエールのキャスティングはツボすぎるのだ。

さらにいえば、取り憑かれたかのように事件の真相に迫るジャーナリストの藤井(山田孝之)の妻を、池脇千鶴が演じているのだが、彼女は痴呆症の義母に嫌気がさしている、という役柄。

ついには、義母に暴力をふるったことを告白するばかりか、「楽しかった」という衝撃コメントまで言わせている。朝ドラ女優にこんな鬼畜セリフを用意するとは!暴力は悪の彼岸にあるのではなく、日常の延長にごろんと転がっていることを、映画は淡々と描き出す。

ただ気になったのは、セリフ&演出がやや類型的なところか。義母の問題をきちんと話し合おうと懇願する妻に対し、藤井は「申し訳ないと思うけど、いま俺仕事忙しいから」とソッケない態度をとるのだが、いくらなんでももう少しマシなセリフはないのか!?と思わず目を剥いてしまった。

女編集長(中瀬ゆかり)が残業続きの藤井に缶コーヒーをおごるとか、あまりにもベタすぎるシーンも少なからずあり、「これってパロディーか?」といぶかってしまうこともしきり。ピエール瀧が連呼する「ブッコむ」というセリフは秀逸だと思いますが。

元々この映画は、実在の死刑囚が告発した殺人事件の真相を新潮45の編集部が暴き、首謀者逮捕に至るまでを描いた犯罪ドキュメントを下敷きにしている。

凶悪―ある死刑囚の告発 (新潮文庫)

凶悪殺人事件をエンターテインメントとして映画化してしまう所行が「凶悪」とするなら、そんな映画を嬉々として観に行ってしまう我々観客も「凶悪」なり。

この映画が持つドス黒い狂気は、監督の師匠筋にあたる若松考二ゆずりなのかもしれまない。

DATA
  • 製作年/2013年
  • 製作国/日本
  • 上映時間/128分
STAFF
  • 監督/白石和彌
  • 製作/鳥羽乾二郎、十二村幹男
  • エグゼクティブプロデューサー/由里敬三
  • プロデューサー/赤城聡、千葉善紀、永田芳弘、齋藤寛朗
  • アソシエイトプロデューサー/小室直子、小松重之
  • 脚本/高橋泉、白石和彌
  • 撮影/今井孝博
  • 美術/今村力
  • 衣裳/小里幸子
  • 編集/加藤ひとみ
  • 音楽/安川午朗
CAST
  • 山田孝之
  • ピエール瀧
  • リリー・フランキー
  • 池脇千鶴
  • 白川和子
  • 吉村実子
  • 小林且弥
  • 斉藤悠
  • ジジ・ぶぅ

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