アバター/ジェームズ・キャメロン

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ジェームズ・キャメロンがハードウェア視点から回答を導き出した、“映画の未来”

1895年12月28日、パリのグラン・カフェにて、リュミエール兄弟による世界最初の有料映画上映会が行われた。

出し物は『列車の到着』(1895年)。画面奥から列車が手前に近づいて来るだけの映像なのだが、紳士淑女の皆様は「スクリーンを突き破って、列車が飛び出して来るんではないか」と錯覚し、パニックに陥ったというのは有名な話。

映画の歴史は、技術革新の歴史でもある。無声映画はトーキーとなり、白黒映画は総天然色となった。そして今ジェームズ・キャメロンは、デジタル立体映像技術を駆使して、2Dを3Dに刷新しようと目論んでいる。

歴史的な大ヒットをおさめた『タイタニック』(1997年)以降、12年間劇場用映画の製作から離れて、もっぱら視覚効果のテクノロジー開発に情熱を傾けてきたキャメロン。

それは、新しい知覚体験を創造するにあたって、ソフトではなくハードのイノベーションが必須の条件だったからだ。彼は21世紀のリュミエール兄弟たらんとしているんである。

キャメロンはさるインタビューで、「『アバター』は『ダンス・ウィズ・ウルヴス』のSF版だ」と語っている。なるほど、地球人が大挙して惑星パンドラに押し掛け、先住民族ナヴィを武力で威嚇し、地中に眠る希少鉱物を奪取せんとするアウトラインは、白人中心主義によってスー族が追いやられる『ダンス・ウィズ・ウルヴス』(1990年)と一緒だ。

そもそも西部開拓を描いた映画は、すべからくこのようなフォーマットを踏襲しているからして、アメリカ人共通の記憶といっても良ろしかろう。

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『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(ケビン・コスナー)

だが『アバター』が少々やっかいなのは、ナヴィと地球人のDNAを組み合わせて創りだされた人工ヒューマノイド“アバター”に、意識を連結させることによって、「人間界」と「ナヴィ界」を行き来するという、SF的ガジェットである。

明らかにこれは、『マトリックス』に代表される’90年代的意匠。つまり『アバター』は、アメリカ人にとって極めて古典的な物語を、’90年代的世界観で肉付けし、ゼロ年代的な3D技術で撮り上げた作品なのだ。

僕はこの映画を劇場で2回観た。最初は通常版を渋谷シネタワーで、2回目はIMAX-3D版を109シネマズ川崎で(わざわざ会社を休んで行ったのだ!!)。だって『アバター』を主題論のみで語っても仕方がないじゃんか。

「巨大翼竜トルークに乗って滑降するジェイク、超かっけー」とか、「地球人とナヴィとの全面戦争、躍動感がハンパねー」とか、その視覚効果に心ゆくまで酔いしれること、これが絶対的に正しい鑑賞法なんである。

もちろん、不満もいーっぱいあります。『ターミネーター』(1984年)の頃から戦うマッチョ・ヒロインが大好きなジェームズ・キャメロンは、この作品でもゾーイ・サルダナ、シガーニー・ウィーバー、ミシェル・ロドリゲスという男勝りの女傑を並べてまくっていて、女優陣は確かにいいんだが、今回主役に大抜擢されたオーストラリア人俳優サム・ワーシントンが、全く光ってない。

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『ターミネーター』(ジェームズ・キャメロン)

そもそも車椅子生活を余儀なくされているという設定だけに、 最初からアクションを剥奪されていて、そのぶん演技力が要求されるんだが、喜怒哀楽を表情で的確に表現できる役者ではないため、単に頭の悪いマッチョガイにしか見えず。

下半身不随者ゆえに、 アバターとなった彼の生命力、躍動感が強調されるのであって、もっと肉体的・精神的に脆弱な個性を出せる役者のほうが良かったんじゃないか。個人的には、『ファイト・クラブ』(1999年)の頃のエドワード・ノートンが演じたらハマリ役だったと思うんだが。

傭兵部隊Sec-Opsを率いるマイルズ・クオリッチ大佐の悪役っぷりも、ステレオタイプすぎ。もはや、筋肉そのものが己の存在証明!!というくらいの薄っぺらさで、もはや『スト2』とか『鉄拳』とか、内面が全く露呈されないゲームキャラにしか見えず。勧善懲悪の単純な二項対立が崩壊した現在にあって、ここまで明快すぎる悪役を提出してくれると、逆に「あっぱれ!!」と言いたくなってしまいますが。

あと「うーむ、こいつはなかなか厄介だな」と思ったのは、異星人ナヴィの、単純にアニメーションともいえず、もちろん実写ともいえない、微妙な存在感レベルである。いやー、これヘタしたらロバート・ゼメキスの『ロジャーラビット』(1988年)ですよ。

リアルと仮想のビジュアライズが水と油のように分離されていて、2つの世界が1画面におさまっていることに、終始違和感を感じてしまった。

しかもジェイクはナヴィの族長の娘ネイティリとセックスまでしてしまう始末!ゲテモノ映画に入るか、入らないかのギリギリライン。少なくとも僕にはそう感じられてしまった。

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『ロジャー・ラビット』(ロバート・ゼメキス)

いずれにせよ『アバター』は、映画界を本格的3D時代に突入させた。この稿を書いている2010年2月18日時点で、『ハリー・ポッター』シリーズの最終章や、『スパイダーマン』の新作が3Dで製作されることが発表されている。

ティム・バートンの『アリス・イン・ワンダーランド』(2010年)や、ピクサーの『トイストーリー3』(2010年)も3D映画だ。映画というメディアが、テン年代以降も魅力的なコンテンツであり続けるにはどうすればいいのか?という問いを、ジェームズ・キャメロンは技術革新の面から解答を導きだしたんである。

DATA
  • 原題/Avatar
  • 製作年/2009年
  • 製作国/アメリカ
  • 上映時間/161分
STAFF
  • 監督/ジェームズ・キャメロン
  • 製作/ジェームズ・キャメロン、ジョン・ランドー
  • 製作総指揮/コリン・ウィルソン、レータ・カログリディス
  • 脚本/ジェームズ・キャメロン
  • 撮影/マウロ・フィオーレ
  • プロダクションデザイン/リック・カーター、ロバート・ストロンバーグ
  • 衣装/デボラ・スコット
  • 編集/スティーヴン・リフキン、ジョン・ルフーア、ジェームズ・キャメロン
  • 音楽/ジェームズ・ホーナー
CAST
  • サム・ワーシントン
  • ゾーイ・サルダナ
  • シガーニー・ウィーバー
  • スティーヴン・ラング
  • ミシェル・ロドリゲス
  • ジョヴァンニ・リビシ
  • ジョエル・デヴィッド・ムーア
  • CCH・パウンダー
  • ウェス・ステューディ
  • ラズ・アロンソ

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