ポップカルチャーWEBマガジン「POP MASTER」にようこそ!司会の竹島ルイです。ではさっそくクイズと参りましょう。ズバリ、年間映画製作本数が世界一多い映画大国は?
A. インド
B. アメリカ
C. フランス
D. オトナ帝国
ハイ、正解はインドですね。年間1000本近くの映画が製作されているそうです。さらに言うなら、娯楽都市ムンバイの旧名ボンベイとハリウッドをもじって、インド産娯楽映画全般のことをボリウッド・フィルムと呼んでいます。
『スラムドッグ$ミリオネア』はイギリス資本ですが、その手触りはまごうことなきボリウッド・フィルム。兄弟2人と女1人というメインキャラクター設定はインド映画の類型的な王道パターンですし、ラストはお約束の歌えや踊れやのミュージカル!ヤッホー!イェー!ザッツ・マサラムービー!
…すいません、取り乱しました。気を取り直して、再びクイズと参りましょう。ズバリ、『スラムドッグ$ミリオネア』の監督の名前は?
A. ダニー・ボイル
B. ダニー・デヴィート
C. ダニー・ボーイ
D. 谷隼人
ハイ、正解はダニー・ボイルですね。ではダニー・ボイルの代表作といえば何でしょうか?
A. 『トレインスポッティング』(1997年)
B. 『タイタニック』(1997年)
C. 釣りバカ日誌
D. 北京原人
ハイ、もちろん『トレインスポッティング』です。
この映画で華々しくヒットメーカーの仲間入りをしたダニー・ボイルですが、ビーチリゾートに行ってみたり、ウィルスが蔓延したり、宇宙船で太陽に向かってみたり、節操のなさすぎるラインナップで、正直最近は今イチ方向性が見えなかったのも事実。
今回も突然ボリウッド・フィルムに手を出した訳ですが、第81回アカデミー賞で作品賞を含む8部門を受賞するなど、その才能が意外なカタチで認められることになりました。おめでとうございます。
そもそもダニー・ボイルはリドリー・スコットへのリスペクトを表明していますが、テンポの良いカッティング&スピーディーな展開は、どちらかといえば弟のトニー・スコット寄りの映像センス。
インド特有のパワフルな混沌を描出するにあたって、彼のダイナミックかつスタイリッシュな映像センスが大きな効果をもたらしていることは間違いナシ。
このハイブリッド感が、国際都市として急速に発展しつつあるムンバイの猥雑なエネルギーと共振しています。
インドという異空間で繰り広げられる「宿命の恋」はロマンティックでドラマティック。お互い愛し合いながらも、非情な運命に翻弄されてなかなか結ばれることができない展開には、淑女の皆様もウットリされることでしょう。
ただ個人的に難を言わせてもらうなら、成人してからの兄弟2人と女1人の人間関係が、ちょっとオザナリになってしまったかな、と。
特に兄のサリームが弟のジャマールに対して抱く感情の推移や転換点がまったく見えてこない。彼が最後に吐く「神は偉大なり」のセリフも、サリームの内面にドラマが干渉しないぶん、あまり有効に機能していません。
さらに言えば、インドの貧富の差が二極化している元兇は、米国メジャーに代表されるグローバル企業の干渉に他ならぬ訳で、ハリウッド資本によってこのような映画が撮られたというのは、ある意味皮肉的です。
本作がアカデミー賞を受賞したのは、その事実を隠蔽したいハリウッドによる政治的策略のようにも思えてしまいます。
そういえば、ダニー・ボイルの出世作『トレインスポッティング』で、ユアン・マクレガーがトイレに飛び込むシーンがありましたが、この『スラムドッグ$ミリオネア』でも、主人公のジャマール少年がポットン便所に飛び込むという壮絶なシーンがあります。
彼の映画における便所ダイビングは通過儀礼のようなもの。主人公たちは排泄物まみれになって、初めてドラマに参加する権利を得るようです。
そんな通過儀礼、僕は嫌ですけど。
- 原題/Slumdog Millionaire
- 製作年/2008年
- 製作国/イギリス
- 上映時間/120分
- 監督/ダニー・ボイル
- 製作/クリスチャン・コルソン
- 原作/ビカス・スワラップ
- 脚本/サイモン・ボーフォイ
- 撮影/アンソニー・ドッド・マントル
- 美術/マーク・ディグビー
- 音楽/A・R・ラフマーン
- 編集/クリス・ディケンズ
- デブ・パテル
- フリーダ・ピント
- マドゥル・ミッタル
- アニル・カプール
- イルファン・カーン
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