鍛え抜かれた痩身に刻印された傷跡は、ストイシズムの証。『ガントレット』は、そのプロセスを無骨なほど実直になぞっている。ハリウッドに悠然と屹立する「イーストウッドの強靭な意志」が、スクリーンを完全支配してしまう、コイツは、100%イーストウッド印の映画なのだ。
物語の舞台はフェニックスからラスベガス、アリゾナへと移り変わっていく。刑事ドラマの舞台である都市部から西部劇への舞台である砂漠地帯へと、それはまるでイーストウッド自身のフィルモグラフィーをなぞるがごとく。
そう、まさにこの道程は彼にとって巡礼の旅なのだ。行動を供にするパートナーが、イーストウッドの映画において常に庇護の対象であった“娼婦”という事実が、それを強固に裏付ける。
イーストウッドは、『俺たちに明日はない』、『明日に向って撃て!』に代表されるアメリカン・ニュー・シネマのように、体制側に圧殺されたりはしない。
乗り込んだ大型バスに8000発も銃弾を撃ち込まれようと、その歩みを緩ませず、職務を全うしようとする(なぜ警官たちがタイヤを撃たないのかという疑問は、とりあえず無視しておこう)。
そもそも“ガントレット”とは、道の両側にムチを持った人間を並べて、その間を罪人に走らせるという、西部開拓時代の鞭打ち刑のこと。
ハリウッドの巨大な父性である彼は、ボニー&クライドのように安易な死への疾走を良しとはせず、その試練に打ち勝ち、最後までその存在感をフィルムに焼き付けんとする。
アナーキー全盛の時代にあって、頑ななまでに生への執着を提示した『ガントレット』は、極めて異質な光を放っている。
実はこの作品 、もともとはスティーヴ・マックイーンと、バーブラ・ストライザンドの顔合わせで企画されていたらしい。結局マックイーンが降板して、イーストウッドが映画権を買い取る形になったのだが、バーブラ・ストライザンドの娼婦役って言われても、ちょっとヒイてしまうよなあ。
- 原題/The Gauntlet
- 製作年/1977年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/109分
- 監督/クリント・イーストウッド
- 脚本/マイケル・バトラー、デニス・シュラック
- 製作/ロバート・デイリー
- 撮影/レックスフォード・メッツ
- SFX/チャック・ガスパー
- 音楽/ジェリー・フィールディン
- クリント・イーストウッド
- ソンドラ・ロック
- パット・ヒングル
- ウィリアム・プリンス
- マイケル・カバナー
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