偉大なDCコミックス・スターが帰還を果たした、『ダークナイト』シリーズ第一弾
ゴッサムシティに舞い降りる闇の天使、バットマン。
スーパーマンやスパイダーマンのように、“絶対的な正義”という屈託のないイノセンスを妄信するアメコミ・ヒーローとは一線を画す、ダーク・ナイト。そんなバットマンを’80年代に映像化したのは、ティム・バートンだった。
世界屈指のオタク・フィルムメーカーによって創りだされたゴッサムシティは、ポップなイコンが街中に塗りたくられたワンダーランド。それはティム・バートン自身の理想郷であり、いつまでも遊んでいたいと願う一大遊戯場。
ゴシックな摩天楼を舞台に、ジャック・ニコルソン扮するジョーカーが狂気のミュージカルを歌い上げる、「裏ディズニーランド」とも言うべき様相を呈していた。
やがて『バットマン・フォーエバー』(1995年)から、監督がジョエル・シュマッカーにバトンタッチされると、キッチュなテイストは影を潜め、都市はアミューズメントパーク的箱庭空間へとスケールダウンしてしまう。
ジョエル・シュマッカーの罪は万死に値すると思うのだが、個人趣味に走りまくったゲイ・テイストとして、僕は寛大に受け止めることにしたのである(彼は同性愛者であることをカミングアウトしている)。
バットマンのエピソード1的物語が展開する『バットマン・ビギンズ』で、監督を務めることになったのは、『メメント』(2000年)、『インソムニア』(2002年)といった過去のフィルモグラフィーにおいて、シャープなサスペンスドラマを創り続けてきたクリストファー・ノーラン。
『ブレードランナー』(1982年)のおけるロサンゼルスのごとく、彼はゴッサムシティをカオス的都市空間として描き出してみせる(クレジットにルトガー・ハウアーの名前がキャスティングされているのは偶然ではない)。
ゴッサムシティの住人たちも、やはりクラシックでモダンな雰囲気をたたえた人物でなければならない。『太陽の帝国』(1987年)を経て、『アメリカン・サイコ』(2000年)へとアンダーグラウンドな変遷を辿ったクリスチャン・ベールを筆頭に、マイケル・ケイン、モーガン・フリーマン、ゲイリー・オールドマン、渡辺謙、リーアム・ニーソン…。
本格の香りをかぐわせる豪華出演陣のなかにあって、トム・クルーズのハートを射止めた紅一点ケイティ・ホームズの庶民的なルックスと佇まいが、物語に潤いを与えている。
己に潜む恐怖・過去のトラウマといったいかにもエピソード1な主題を、エンターテインメントとして消化させた『バットマン・ビギンズ』には、すでに枯渇したと思われていたヒーロー・アクション物の新たな可能性が示されている。
フィックスのショットを放棄したかと思うくらいに手持ちカメラを多用したがために、アクションシーンが絵として締まらないことや、中盤以降のストーリー展開がやや駆け足すぎるなど、全体的に不満もない訳ではないが、偉大なDCコミックス・スターの帰還として、まずは見事な成功をおさめたといってもいいのではないだろうか。
- 原題/Batman Begins
- 製作年/2005年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/140分
- 監督/クリストファー・ノーラン
- 脚本/クリストファー・ノーラン
- 製作総指揮/ベンジャミン・メルニカー、マイケル・E・ウスラン
- 製作/ラリー・J・フランコ、チャールズ・ローブン、 エマ・トーマス
- 脚本/デヴィッド・S・ゴイヤー
- 撮影/ウォリー・フィスター
- 美術/ネイサン・クローリー
- 音楽/ジェームズ・ニュートン・ハワード、ハンス・ジマー
- 衣装/リンディ・ヘミング
- クリスチャン・ベール
- マイケル・ケイン
- リーアム・ニーソン
- モーガン・フリーマン
- ゲイリー・オールドマン
- 渡辺謙
- ケイティ・ホームズ
- キリアン・マーフィ
- トム・ウィルキンソン
- ルトガー・ハウアー
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