とんでもなくエロくて卑猥極まりない、デ・パルマ版『裏窓』
テレビ朝日の『日曜洋画劇場』は、日曜夜9時という時間帯の割には時々とんでもなくエロい映画を放送することがあって、夕食時に家族全員で観ている時なんぞ、空気が凍り付くこと甚だしい。
エロ満載・変態丸出しのデ・パルマ作品をなんの臆面もなく放送できる神経って、マジでどうかしている(『地獄の女囚コマンド』(1990年)みたいなZ級映画も平気で流してたし)。
という訳で、デ・パルマ先生の初期傑作『ボディ・ダブル』(1986年)と僕との出会いも、当然「日曜洋画劇場」であった。淀川長治の解説を何度聞いたか覚えてないくらい、再放送されるたびに見入っていた記憶がある。
超大作『スカーフェイス』(1983年)の成功で、てっきりA級フィルムメイカーの仲間入りをすると思っていたブライアン・デ・パルマが、次作でこのような卑猥極まりない作品を撮ってしまうあたりが、一筋縄でいかない彼らしさ。
デ・パルマ版『めまい』(1958)の『愛のメモリー』(1976年)、デ・パルマ版『サイコ』(1960年)の『殺しのドレス』(1980年)と、ヒッチコックのオマージュ的作品を世に放ってきたデ・パルマ。
本作は、売れない役者のクレイグ・スワッソンが向かいのアパートの殺人事件を偶然目撃し、ふと目にしたポルノビデオから巧妙なトリックを察知して真犯人を追求していくという、デ・パルマ版『裏窓』(1954年)である。
『裏窓』のジェームズ・スチュワートが高所恐怖症だったのに対し、この『ボディ・ダブル』ではクレイグ・ワッソンを閉所恐怖症という設定にマイナーチェンジしているものの、覗き見根性が災難を招くという構造はそのまま。っていうか、より下世話にエスカレートしている。
まさに映画界最強のピーピング・トムである彼にピッタリの題材ではないか。
ヒロインのポルノ女優を扇情的に演じるのは、上下左右に揺れるおっぱいから眼が離せないメラニー・グリフィス嬢。彼女の母親は、ヒッチコック先生の『鳥』(1963年)や『マーニー』(1964年)に主演したティッピ・ヘドレン嬢であるからして、これぞヒッチコキアンらしいこだわりだと思っていたのだが、当初デ・パルマはこの役に本物のポルノ女優であるネット・ヘヴンを起用しようとしていたらしい。
何とデ・パルマ先生、この映画をX指定(問答無用の18禁映画)にしようとしていたんである!!当然のごとく配給元のコロンビアはこのキャスティングを却下した訳だが、何ともゴキゲンなエピソードなり。
回転し続けるキャメラ、長廻し、ズーム+移動撮影によるめまい効果(スピルバーグも『ジョーズ』(1975年)で流用したテクニック)など、『ボディ・ダブル』にはマジカルなデ・パルマ・タッチが満載。
なんてったって、トンネルの出口でオッパイも露わにするほどの激しいラブシーンを、360度パンでグリグリ撮ってたりするんである。うわーこんな使い方、他の監督じゃ絶対思いつかんわ。
デ・パルマ先生はこの映画で、ゴールデンラズベリー賞の最低監督賞にノミネートされてしまったが、個人的にはノーベル変態賞を授与したい気持ちでいっぱいである。
僕は子供の頃、『ボディ・ダブル』における作劇の(いい意味での)あざとさ、上品さのカケラもない猥雑さに心奪われた。そしてこの作品も最もふさわしい鑑賞法はDVDを借りることではなく、一人でポテトチップスでもつまみながら『日曜洋画劇場』で観ることであると、今でも固く信じているのである。
- 原題/Body Double
- 製作年/1986年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/114分
- 監督/ブライアン・デ・パルマ
- 製作/ブライアン・デ・パルマ
- 脚本/ブライアン・デ・パルマ
- 製作総指揮/ハワード・ゴットフリード
- 音楽/ピノ・ドナジオ
- 美術/アイダ・ランダム
- 編集/ジェリー・グリーンバーグ
- 脚本/ロバート・アーブレック
- 撮影/スイーブン・バーン
- クレイグ・ワッソン
- グレッグ・ヘンリー
- メラニー・グリフィス
- デボラ・シェルトン
- デニス・フランツ
- バーバラ・クランプトン
- アネット・ヘヴン
- レベッカ・スタンリー
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