【ネタバレ】『12モンキーズ』(1996)
映画考察・解説・レビュー
『スペース カウボーイ』(原題:Space Cowboys/2000年)は、クリント・イーストウッドが監督・主演を務めた映画。かつてのテストパイロットたち“チーム・ダイダロス”が、老いてなお宇宙へ挑み、西部劇の英雄像を宇宙という新たなフロンティアに重ね合わせた。トミー・リー・ジョーンズ、ドナルド・サザーランド、ジェームズ・ガーナーといった名優たちが集結し、老人の友情とユーモアを軸に“老いの美学”を描く。
チーム・ダイダロスが魅せる、アメリカ映画の生きた歴史
クリント・イーストウッドが21世紀の幕開けに監督・主演を務めた『スペース カウボーイ』(2000年)は、彼自身のフィルモグラフィーの中でも、このうえなくチャーミングで、愛おしさに満ちた作品のひとつだ。
イーストウッドが『ルーキー』(1990年)や『ザ・シークレット・サービス』(1993年)で執拗に提示し続けてきた、「昔とった杵柄」もしくは「年寄りの冷や水」という大好物な主題を、宇宙空間にまでスケールアップ。
しかもタイトル通り、古き良き西部劇のオマージュとして描いてみせたのだから、頭から尻尾の先まで完璧なイーストウッド印。これで面白くならない道理がない!
本作の最大の特色にして最強の武器は、時代遅れな頑固職人というイーストウッド的キャラクターが、なんと四人のハリウッド・レジェンドに分裂して画面に登場する点にある。
無鉄砲な天才パイロットのホーク(トミー・リー・ジョーンズ)、女好きで視力に難ありのジェットコースター技師ジェリー(ドナルド・サザーランド)、温厚な元ナビゲーターの牧師タンク(ジェームズ・ガーナー)、そして生真面目なエンジニアのフランク(イーストウッド)。この無敵の布陣が織りなすのは、いわば圧倒的な老人力を駆使したチーム・プレイ絵巻である。
これまで『ダーティハリー』(1971年)に代表されるような、孤高のヒーロー像を体現してきたイーストウッドが、ここにきてまさかの泣かせるチームプレイ。
1958年に宇宙へ行くはずだったが、チンパンジーにその座を奪われた幻のテストパイロット、「チーム・ダイダロス」。40年の時を経て再び召集された彼らは、NASAのエリート若手宇宙飛行士たちからライト・スタッフならぬライプ・スタッフ(熟れ過ぎた男たち)と容赦なく揶揄される。
しかし、彼らは過酷な訓練に泥臭く食らいつき、老いの弱点すら逆手に取った圧倒的なプロフェッショナリズムと経験値で、生意気な若造どもを次々と黙らせていくのだ。
特に、視力検査に落第しかけたジェリー(サザーランド)が、驚異的な記憶力とハッタリで視力表を暗唱しピンチを切り抜ける場面には、思わず劇場で快哉を叫びたくなった。
このキャスティングの妙こそが、本作を単なるコメディから映画史的モニュメントへと昇華させている。ドナルド・サザーランドは『大脱走』(1963年)や『M★A★S★H』(1970年)で魅せた不良キャラの余裕を漂わせ、ジェームズ・ガーナーは『マーヴェリック』などで築いたタフでユーモラスな人物像を完璧に踏襲する。
そしてトミー・リー・ジョーンズは、『逃亡者』(1993年)以来の厳格な顔を見せつつ、本作のラストではイーストウッドの魂の分身として、文字通り“月に眠る男”となる。
この4人のシワに刻まれた顔ぶれ自体が、豊かなアメリカ映画の歴史そのものを体現しているのだ。
痛快な老人喜劇から、息詰まる冷戦スリラーへ
映画の前半は、この不良老人たちの奮闘をユーモアたっぷりに描く。最新のトレーニング施設で遠心分離機に振り回されて吐きそうになったり、ランニングで息を切らせながらも互いを笑い飛ばす様は、実に牧歌的でチャーミングだ。
だが、いざスペースシャトルに乗り込み、彼らが宇宙へと飛び出した段階で、映画の空気は一転して肌を刺すようなシリアスなサスペンス・ドラマへと反転する。
彼らがNASAから修理を命じられた旧ソ連の古い通信衛星アイコンは、ただの通信機器などではなかった。それは6発の核ミサイルを搭載した、いつ地球に落下してもおかしくない「冷戦の恐るべき遺物」だったのだ。
かつて宇宙開発競争の時代に取り残されたチーム・ダイダロスが、今度はその同時代に生み出された時代遅れの大量破壊兵器と直接対峙することになる。
ここで映画は、単なるハートウォーミングな老人喜劇から、一歩間違えれば地球滅亡という冷戦スリラーのヒリヒリするような緊張感へと見事に舵を切るのである。この鮮やかなジャンル越境の構造こそ、イーストウッド映画の真骨頂にして最大の醍醐味だ。
『ミスティック・リバー』(2003年)が犯罪ミステリーでありながらギリシャ悲劇的ドラマであり、『グラン・トリノ』(2008年)が現代の移民・人種ドラマでありながらその魂は完全に西部劇のコードに貫かれていたように、この映画もまた、スポ根コメディからハードSFアクション、さらには西部劇的対決の宇宙的隠喩にまで及ぶ、奇跡のクロスオーヴァー・ムービーとして完璧に成立しているのだ。
『アルマゲドン』への静かなる抵抗
この映画の公開わずか2年前には、ブルース・ウィリス主演の『アルマゲドン』(1998年)が世界的なメガヒットを記録し、同年には『ディープ・インパクト』(1998年)も公開されていた。
両作とも「地球滅亡の危機を阻止するために、クルーを宇宙へ送り込む」という大仰なプロットを掲げ、怒涛のCGと爆破スペクタクルを全面に押し出した大味のアクション大作だった。
だが、イーストウッドが『スペース カウボーイ』で提示したのは、それらに対する強烈なアンチテーゼ。彼はVFXや爆発を派手に見せびらかすのではなく、あくまで老人たちの物語に重心を置いた。
老練な男たちの皮肉の効いたやりとり、過去の因縁の清算、そして時代の遺物と自らの死に様に向き合う姿勢を、どこまでも丁寧に、アナログな肌触りで描き出す。
宇宙空間のSFXは当時の最新技術(ILMが担当)を駆使して極めてリアルに仕上げられているが、その真の狙いは「驚異の映像体験で観客を圧倒すること」ではなく、「シワだらけの男たちのドラマの説得力を補強すること」にある。スペクタクルは手段に過ぎず、目的は常に人間を撮ることだったのだ。
そして、この映画には二重の“埋葬”のモチーフが隠されている。ひとつは、冷戦の負の遺産である核兵器を、自らの命と引き換えに宇宙の彼方(月)へと葬り去るという痛快な政治的寓話。
そしてもうひとつは、「西部劇」というアメリカ映画の伝統的なジャンルそのものを、SFの枠組みに移し替えた上で美しく弔うという、映画史的な壮大な寓話である。
タイトルの「カウボーイ」には、古き良きフロンティアを駆け抜けた男たちへのノスタルジックな響きがある。だがそれは同時に、「もう二度と帰ってこない時代」への厳かなレクイエムでもあるのだ。
イーストウッドは、西部劇を生き抜いた最後の生き残りたちを宇宙空間へと送り込み、その最期を月面に刻ませることで、ジャンルそのものを静かに、そして最高の敬意をもって葬送する。
ラストシーン、フランク・シナトラの名曲「Fly Me To The Moon」が優しく流れる中、トミー・リー・ジョーンズ演じるホークが月面で岩に寄りかかり、地球を見つめながら永遠の眠りにつく姿。
単なる自己犠牲の悲劇や、安い感傷などは微塵もない。ここにあるのは、自らの人生と職務を完全に全うした者だけが持ち得る、究極のユーモアと余裕、すなわち老人力の美学の極致だ。
同時代のSF映画が大規模破局とCGを競い合っていた時期にあって、『スペース カウボーイ』は「老い」「友情」「プロの矜持」という人間サイズのテーマを、宇宙という大舞台で堂々と、そして飄々と描き切った。
その圧倒的な潔さとチャーミングさこそが、職人クリント・イーストウッドの真骨頂なのである。
- 監督/クリント・イーストウッド
- 脚本/ケン・カウフマン、ハワード・クラウスナー
- 製作/クリント・イーストウッド、アンドリュー・ラザー
- 製作総指揮/トム・ルーカー
- 撮影/ジャック・N・グリーン
- 音楽/レニー・ニーハウス
- 編集/ジョエル・コックス
- 美術/ヘンリー・バムステッド
- 衣装/デボラ・ホッパー
- 恐怖のメロディ(1971年/アメリカ)
- アイガー・サンクション(1975年/アメリカ)
- ガントレット(1977年/アメリカ)
- ファイヤーフォックス(1982年/アメリカ)
- ペイルライダー(1985年/アメリカ)
- ホワイトハンター ブラックハート(1990年/アメリカ)
- 許されざる者(1992年/アメリカ)
- パーフェクト・ワールド(1993年/アメリカ)
- マディソン郡の橋(1995年/アメリカ)
- トゥルー・クライム(1999年/アメリカ)
- スペース カウボーイ(2000年/アメリカ)
- ブラッド・ワーク(2002年/アメリカ)
- ミスティック・リバー(2003年/アメリカ)
- ミリオンダラー・ベイビー(2005年/アメリカ)
- グラン・トリノ(2008年/アメリカ)
- チェンジリング(2008年/アメリカ)
- インビクタス/負けざる者たち(2009年/アメリカ)
- ヒア アフター(2010年/アメリカ)
- J・エドガー(2011年/アメリカ)
- アメリカン・スナイパー(2014年/アメリカ)
- ハドソン川の奇跡(2016年/アメリカ)
- クライ・マッチョ(2021年/アメリカ)
- 陪審員2番(2024年/アメリカ)
![スペース カウボーイ/クリント・イーストウッド[DVD]](https://popmaster.jp/wp-content/uploads/81AEy6FH8QL._AC_SL1500_-e1707307609128.jpg)
![ザ・シークレット・サービス/ウォルフガング・ペーターゼン[DVD]](https://popmaster.jp/wp-content/uploads/81WdzhhEHHS._AC_SL1500_-e1707305879580.jpg)
![逃亡者/アンドリュー・デイヴィス[DVD]](https://popmaster.jp/wp-content/uploads/81sTzOvDwwL._AC_UL640_FMwebp_QL65_-e1772670276734.webp)
![アルマゲドン/マイケル・ベイ[DVD]](https://popmaster.jp/wp-content/uploads/616Kdu83SxL._AC_SL1000_-e1751523915239.jpg)