自分探し系まったりムービー/ベルサイユ宮殿編
えー賛否両論が入り乱れている『マリー・アントワネット』(2006年)です。実際、一緒に僕とこの映画を見に行った連れは、「淡々としすぎていて、どこが面白いのか分からない!」という不満を申しておりました。
…が!良くも悪くも、これはソフィア・コッポラしか撮れない映画なんだと思う。スーパーセレブのマリー・アントワネットを、何の偏見もなしにフラットな視座で切り取ることができるのは、これまた映画界のスーパーセレブのソフィア・コッポラ嬢しかいない訳で。
「天才は天才を知る」みたいに「セレブはセレブを知る」作品なんである。時代に翻弄される歴史劇ではなく、あくまでガーリーな青春宮廷絵巻として押し通した心意気も、“買い”。
実際ソフィア・コッポラは、さるインタビューで、「アントワネットがヴェルサイユ宮殿に嫁いだとき、まだ14歳だったという事実が心に引っかかった」と語っている。彼女はフランス革命を背景にしたコスチュームプレイに興味はさらさらなく、一人の女の子のパーソナルな物語に吸い寄せられたのだ。
若くして異国に連れてこられ、そのギャップに戸惑いつつも“自分探し”に没頭するという基本ラインは、舞台を18世紀のフランスに移しただけで、実は前作『ロスト・イン・トランスレーション』(2003年)と一緒。
ソフィア・コッポラは、『ダーリング』(1964年)や『アマデウス』(1984年)を参考にして、クラシカルになりすぎないテイストを模索したという。
マリー・アントワネットという古典的マテリアルを、POP&CUTEなテクスチャーに彩られたソフィア・ワールドに引きずり込んでしまうのは、やっぱり彼女のアーティストとしての自信の表れだと思う。
夜通しパーティーやって、朝まで騒いで、コークでハイになって、明け方に草原に寝転んでチル・アウト…なんて絵は、クラブで朝まで踊り明かして、明け方に渋谷駅のモヤイ像近くでまったりしているボーイズ&ガールズと、見事までににシンクロ。
『マリー・アントワネット』は、刹那的に現在を生きている女の子の、極めて現代的な物語なんであって、中盤部で彼女がロハス的な生き方を模索するあたりなんぞ、実にイマ風。
起伏に富んだドラマは最後まで生成されず、「遊んで、美味しいものを食べて、恋をして…」という超ギャル系シークエンスが、順繰りに展開されるのだ。
厳密な時代考証はさしおいて、この時代にはまだつくられていなかったはずの色とりどりなマカロンを散りばめてみたり、劇伴にエフェックス・ツインやバウ・ワウ・ワウを使ってみたり、コンバースのスニーカーが何故か一瞬映ってたりと、自由奔放なデタラメさがこの映画の最大の魅力。
まずは「自分探し系まったりムービー/ベルサイユ宮殿編」という捉え方が、この作品に対する真っ当な接し方のような気がする。
なお、「キルスティン・ダンストは可愛いのか、ブサイクなのか?」という現在のハリウッドが抱える最大のミステリーについては、この稿では言及を避けておきます。
- 原題/Marie Antoinette
- 製作年/2006年
- 製作国/アメリカ
- 上映時間/123分
- 監督/ソフィア・コッポラ
- 製作/ソフィア・コッポラ、ロス・カッツ
- 共同製作/カラム・グリーン
- 製作総指揮/フランシス・フォード・コッポラ、ポール・ラッサム、フレッド・ルース、マシュー・トルマック
- 脚本/ソフィア・コッポラ
- 撮影/ランス・アコード
- 衣装/ミレーナ・カノネロ
- 編集/サラ・フラック
- 音楽プロデューサー/ブライアン・レイツェル
- キルステン・ダンスト
- ジェイソン・シュワルツマン
- リップ・トーン
- ジュディ・デイヴィス
- アーシア・アルジェント
- マリアンヌ・フェイスフル
- ローズ・バーン
- モリー・シャノン
- シャーリー・ヘンダーソン
- ダニー・ヒューストン
- スティーヴ・クーガン
- ジェイミー・ドーナン
- クレメンティーヌ・ポワダッツ
- オーロール・クレマン
- メアリー・ナイ
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