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2017/9/29

A Hundred Days Off/アンダーワールド

『A Hundred Days Off』──レイヴ以降のダンス・ミュージックがたどり着いた呼吸

『A Hundred Days Off』(2002年)は、アンダーワールド(Underworld)がダレン・エマーソン脱退後に発表したスタジオアルバムで、ロンドンを拠点に活動するデュオの新体制初作品となる。前作からの流れを受け継ぎながら、電子音楽とソングライティングを融合させた構成が採られ、シングル「Two Months Off」を収録。2000年代初頭のUKエレクトロニック・シーンの動向と並行して制作され、当時のダンス・ミュージックの環境変化の中でリリースされた。

アンダーワールドが接続した90年代の残骸

1980年代末から90年代初頭にかけてイギリスを包んだセカンド・サマー・オブ・ラヴは、アシッド・ハウスとMDMAを媒介にした“拡張された共同体”の夢だった。

若者たちは倉庫へ、野外へ、都市の周縁へ向かい、反復ビートを軸にした祝祭を共有した。恍惚が共同体の装置となり、レイヴは単なる音楽ジャンルではなく、一種の社会的運動として広がった。

しかし1994年、Criminal Justice and Public Order Act が施行されると、状況は急激に変わる。“反復的ビートを特徴とする音楽”の野外集会に対し、警察が強制介入できるようになったのだ。

レイヴ文化の制度的な死である。音楽の問題ではなく、身体の自由に対する規制であり、若者文化の抑圧でもあった。

この“真空の時代”にアンダーワールドが放ったのが、『Dubnobasswithmyheadman』(1994年)と『Second Toughest in the Infants』(1996年)だった。

ハードな4つ打ち、サンプルの微細な処理、ヴォーカルの断片化──それらが10分以上の持続のなかで再構成される。クラブの即効性と、長尺リスニングの没入性。この二つの欲望を同時に満たすことが、レイヴ後の音楽に求められた条件だった。

外界の祝祭は規制されても、音の内部に都市の残響は残る。アンダーワールドはその残響を“リスニング体験”という新たな身体形式に変換した。レイヴの終わりを引き受けながら、なお続く恍惚の方法を模索する──それが90年代アンダーワールドの核心だった。

ゼロ年代の音像へ

2002年の『A Hundred Days Off』は、ダレン・エマーソン脱退後の初作品であり、アンダーワールドの音響思想が大きく転換した地点でもあった。

従来のアッパーな推進力は保持しつつ、音の密度を一度解体し、“空間”と“呼吸”を中心に据えた構造へリシェイプされている。

冒頭の「Mo Move」は、その象徴的な出発点だ。乾いたパーカッション、短いヴォーカル・ループ、そしてディレイの軌跡が描く空間線。反復の中でわずかな変異が生じ、その変異が時間感覚そのものを伸縮させる。

ミニマル・テクノの厳格さと、ソング・フォーマットの感性が中間領域で融合し、音は“グルーヴではなく空間の動き”として立ち上がる。

「Two Months Off」では、アルバム全体を特徴づける“清涼感”が前景化される。シャッフル気味のリズムと透明度の高いアルペジオが絡み、ハイドの反復フレーズ「You bring light in…」が光源のように浮上する。

中低域は削ぎ落とされ、上モノのきらめきだけが空間に残る。クラブ的な熱狂ではなく、視界が開かれるような拡張。ビートが身体を押し上げるのではなく、光が意識を内部から満たすような音像だ。

「Little Speaker」や「Ess Gee」では、声が意味を剥奪され、音響素材として扱われる。グラニュラー風の加工、フィルターのスイープ、断片的なヴォーカルの挿入──そのいずれもが、90年代的“意味のトランス”から、ゼロ年代的“音の構造体”への移行を示している。

歌詞は物語を語らず、音の一部に溶ける。声は記号ではなく粒子となり、音楽全体の流体構造に組み込まれる。

アルバム全体を貫くのは、「余白」の美学だ。リヴァーブの尾、パッドの残響、音と音のあいだの呼吸。詰め込むことで恍惚を得るのではなく、空間を開くことで意識の拡張を誘導する。

追い詰められた90年代の“過密な音”とは正反対の指向性であり、ゼロ年代を象徴する音響感覚そのものだった。

レイヴ以降のダンス・ミュージックが探したもの

アルバム名『A Hundred Days Off』の由来は、リック・スミスの子どもの「100日に1日しか学校に行かなくて済んだら最高!」という無邪気な発言だったらしい。

しかし、カール・ハイドが「実際に休養が必要だった」と語ったように、タイトルの背後には、00年代初頭のダンス・カルチャー全体を覆っていた“疲弊”の影が射している。

90年代末のスーパークラブ文化は膨張の果てに自己破綻し、音楽産業は高速消費の構造に取り込まれ、レイヴ文化の身体性は制度的に封じ込められた。

そのなかでアンダーワールドは、“持続可能なリズム”の再構築を模索していた。高揚のためのビートではなく、立ち直るためのビート。恍惚のための反復ではなく、呼吸を取り戻すための反復。

『A Hundred Days Off』は、こうした時代感覚を受信した音響建築だった。破壊でも閉塞でもなく、静謐への移行。外的祝祭が終わったあと、なお音の内部にだけ持続可能な共同体を構築する方法。それはレイヴ文化の“残響の終わり”を引き受けた、非常に成熟した姿勢でもあった。

結果としてこのアルバムは、アンダーワールドの転換点であると同時に、ゼロ年代初頭のエレクトロニック・ミュージックを象徴する作品となった。

そこに響くビートは、騒乱の終わりを浄化し、新たな静けさへと導く。言い換えれば、“音の余白によって構築された復活の建築”である。

DATA
  • アーティスト/Underworld
  • 発売年/2002年
  • レーベル/V2 Records
PLAY LIST
  1. Mo Move
  2. Two Months Off
  3. Twist
  4. Sola Sistim
  5. Little Speaker
  6. Trim
  7. Ess Gee
  8. Dinosaur Adventure 3D
  9. Ballet Lane
  10. Luetin