その破壊的なリリック・センスに驚愕する、国民的バンドのデビュー盤
桑田佳祐(ボーカル)、原由子(キーボード)、松田弘(ドラム)、関口和之(ベース)、野沢秀行(パーカッション)、大森隆志(ギター※2001年に脱退)によって結成されたサザンオールスターズは、もともとは青山学院の音楽サークルが母体だった。
一時は「温泉あんまももひきバンド」「ピストン桑田とシリンダーズ」 などという意味不明のバンド名だったこともあったが、アメリカ南部の音楽的要素を盛り込んだ“サザン・ロック”をもじって、サザンオールスターズに改名。
1978年6月25日に『勝手にシンドバッド』でデビューを果たし、同年8月25日に1stアルバム『熱い胸さわぎ』をリリースする。
とにかく『勝手にシンドバッド』は、当時としてはかなり衝撃的な楽曲だった。いきなり“らーらーらーららら”とフルスロットルではじまる激しいコーラス、ラテンの性急なビート、エロスとときめきが同居する歌詞。
普通に考えたらメロディに乗せきれないような量の歌詞を、しゃべくるようなリズムで、しかもランニングシャツ&短パン姿で、桑田佳祐は歌い上げて見せたんである。
国語学者の故・金田一春彦大先生に、「日本語としておかしい」と指摘されたのは有名な話だが、それも、日本語を徹底的に解体し“音素”としても楽しめる言葉を抽出する、桑田の唯一無二の才能を証明するエピソードだと言えよう。
サザンの楽曲は、歌詞・メロディ・リズムが完全に一体となっているので、耳馴染みは非常に良いのだけれども、よくよく考えてみるとものすごくエロい歌詞だったりして驚かされる(TVで流せないような内容の曲がたくさんあったりする)。
作家の村上龍は「桑田くんはたぶんビートを信じているんだと思う」と、わかるようなわからないようなコメントを残しているが、“リズムに乗った語感の気持ちよさ”と“エロス”を重ね合わせて、聴き手にカタルシスをもたらす、そのいかがわしいほどのリリック・センスは、他に類を見ない。
M-7『女呼んでブギ』なんて、今の時代ではジェンダー的にアウトなタイトルだし、「女呼んでもんで抱いていい気持ち」もサイテーすぎる歌詞だが、驚くほどビートにこの日本語が“乗っかっている”のだ。
それでいてM-4『恋はお熱く』のような叙情的なバラードナンバーでは、誰もがキュンと切なくなる“必殺の”メロディに、聴く人の感情のひだをなぞるような、男女間の機微を描いた繊細な歌詞を乗せ、文学的な匂いすら醸し出す。
僕は今でもこのアルバムを聴くたびに、桑田佳祐のコンポーズ能力よりも、その破壊的なリリック・センスに驚愕してしまうのである。
- アーティスト/サザンオールスターズ
- 発売年/1978年
- レーベル/Invitation
- 勝手にシンドバッド
- 別れ話は最後に
- 当って砕けろ
- 恋はお熱く
- 茅ヶ崎に背を向けて
- 瞳の中にレインボウ
- 女呼んでブギ
- レゲエに首ったけ
- いとしのフィート
- 今宵あなたに
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