強烈なプロフェッショナリズムで瑞々しいアマチュアリズムを包み込んだ、清く正しく美しい大和撫子ロック
チャットモンチーの2ndアルバム『生命力』(2007年)を聴いて、驚いた。
今や人気・実力を兼ね備えたガールズ・バンド(この呼称を、本人たちは気に入っていないようだが)となった彼女たちの、デビューアルバムからの大きな飛躍に驚いたのではなく、逆にあまりの「変わらなさ」に驚いたんである。
背伸びするでも後ろ向きになるでもなく、等身大の自分たちをそのまま引き写した、清く正しく美しい大和撫子ロックなのだ。
フツーであればある種の洗練に向かうであろう楽曲のフレーバーは、シンプルな3ピース・バンド・サウンドを堅持しており、ややもすれば稚拙と捉えかねない、素直でてらいのないリリックは、なおその瑞々しさを失っていない。
チャットモンチーの面々は、今なおプリミティヴな初期衝動に突き動かされて、楽曲を製作しているんではないか。むずがゆくなるぐらいに真っ直ぐなミドルテンポ・ナンバー『橙』は、えっちゃんこと橋本絵莉子が高校生のときにつくった曲らしい。
熟しきっていない果実を熟しきらないまま密封パックして、堂々と2ndアルバムに収録してしまえるのが、本当に素晴らしいと思う。
これこそが、強烈なプロフェッショナリズムで、瑞々しいアマチュアリズムを包み込んでしまう、チャットモンチーというバンドの強さなんではないか。いや、プロデューサーを務めるいしわたり淳治の戦略かもしれないけど。
個人的にこのバンドの特質は、橋本絵莉子による卓越したバラード・ナンバーの、コンポーズ能力にあると思っている。デビューアルバム収録の『恋愛スピリッツ』に引き続き、本アルバムの4曲目に収められている『世界が終わる夜に』も、ゼロ年代の日本ミュージック・シーンが産み落とした記念碑的作品として認知すべき、大傑作バラードである。
映画『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(2007年)の主題歌として、福岡晃子が原作をイメージして書き下ろしたリリックは、「わたし」とそれを取り巻く絶望と混沌に満ちた「世界」との関係性を、無自覚なくらいに“セカイ系”な手つきで表現している。
それゆえに浮かび上がる現在進行形のリアリティーが、10代~20代のリスナーと共振する。「世界が終わる夜に」が内包しているヘヴィネスは、多かれ少なかれ我々自身が抱える内実なのだ。
- アーティスト/チャットモンチー
- 発売年/2007年
- レーベル/東芝EMI
- 親知らず
- Make Up! Make Up!
- シャングリラ
- 世界が終わる夜に
- 手のなるほうへ
- とび魚のバタフライ
- 橙
- 素直
- 真夜中遊園地
- 女子たちに明日はない
- バスロマンス
- モバイルワールド
- ミカヅキ
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