『JPN』(2011年/Perfume)
楽曲背景と意味を深掘り考察・批評・レビュー
『JPN』(2011年)は、Perfumeが発表した3枚目のオリジナル・アルバム。中田ヤスタカによる全面プロデュースのもと、前作までのソリッドなエレクトロ路線の鋭利さを残しつつ、聴き手の心に真っ直ぐに届く「温かみ」と「和」のニュアンスを大胆に取り入れた意欲作となっている。アルバムを象徴する「レーザービーム」や「GLITTER」で見せる疾走感溢れるダンス・ビートと、ドラマティックな旋律が光る「スパイス」に見られるような繊細な叙情性。それらは、デジタルな音像でありながらも、3人の歌声が持つ無垢な響きによって、不思議なほど親密で柔らかな体温を湛えている。
東京ドームの熱狂と、世界へ向けた飛躍
2010年11月3日、Perfumeの結成10周年とメジャーデビュー5周年を記念して行われた「Perfume LIVE @東京ドーム『1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11』」。僕も喜び勇んでその歴史的な現場へと足を運んだ。
地方のローカルアイドルから出発した彼女たちが、下積み時代から目標として掲げていた「東京ドーム」という夢の舞台をついに結実させた瞬間である。
5万人のオーディエンスの視線を360度から浴びるように、アリーナ中央に設営された円形ステージで、あ~ちゃん(西脇綾香)、かしゆか(樫野有香)、のっち(大本彩乃)の3人が所狭しとダンスを繰り広げる。
巨大な空間をものともしない緻密なフォーメーションと、演出振付家であるMIKIKOの振付による前衛的かつキャッチーな身体表現は、巨大なドームをあっという間に広大なダンスフロアへと変えた。
結成当時の初々しさはしっかりとキープしつつ、そのパフォーマンスはさらに洗練され、深化の一途を辿っていた。単なるアイドルのコンサートの枠を越え、最先端の映像演出と生身の身体性が融合した堂々たる姿を見せられてはたまらず、僕も年甲斐もなくダンサブルなナンバーに合わせて激しく腰をうねらせてしまった(そして案の定、ひどく疲れた)。
日本屈指のスーパーグループへと成長したPerfumeは、前作『⊿』(2009年)の発売以降、バラエティー番組での露出をあえてセーブし、ライブを中心に活動していくアーティスト路線へのシフトを鮮明にしていた。
断続的にシングルをリリースしながら、2010年にはマカオで開催された音楽授賞式「Mnet Asian Music Awards」への出演、翌2011年にはピクサー映画『カーズ2』(2011年)への楽曲提供(「ポリリズム」)とそれに伴うロサンゼルスのワールドプレミアへの出席など、まさにワールドワイドに活躍の場を広げていった時期だ。
等身大のポップスへの原点回帰
そして満を持して、2年4か月ぶりにリリースされたPerfumeの4thアルバムは、日本の音楽力を世界に発信するという強い心意気からか、その名もズバリ『JPN』(2011年)と題された。
実はこのタイトルは東日本大震災の発生前に決定されていたものだが、未曾有の国難を経験した当時の日本において、結果として「日本を元気づける」という壮大で重みのあるメッセージを偶然にも背負うこととなった。
キックやスネア、ハイハットが小気味よく鳴り続けるグルーヴィーなダンス・トラックは健在ながら、『JPN』が発するサウンドは『Perfume ~Complete Best~』(2006年)の頃のような近未来ピコピコ・テクノポップではないし、『GAME』(2008年)や『⊿』で提示したような、当時の海外エレクトロ・シーンとダイレクトに共振するバキバキのクラブ・ミュージックとも少し違う。
そこに収められていたのは、当時22歳という大人の女性へと差し掛かった彼女たちの等身大の日常や細やかな心情が描かれた、極めてキュートなポップ・ソングたちだ。
「微かなカオリ」や「スパイス」などに顕著なように、柔らかなシンセサイザーの音色やアコースティックな響きを大胆に導入し、ハードエッジなテクノ路線からふっと遊離している。
それは決して単なる過去への退行ではなく、世界基準のダンス・ミュージックの骨格に、日本特有の「歌謡曲」的なメロディセンスとノスタルジーを見事に融合させた、背伸びをしないナチュラルな音創りへの「高度な原点回帰」だった。
アンドロイドから肉声へ
サウンドの変容に伴い、ヴォーカル表現にも劇的な変化が起きた。
これまで個人を特定するのが困難なほどにオートチューン等のエフェクターで深く加工されていたヴォーカル・エフェクトは意図的に軽減され、「アンドロイドっぽい」と揶揄されることもあった声の質感は、体温を感じさせるものへと変化。アルバムのM-6に収録された「時の針」に至っては、完全な生声がそのまま収録されている。
かつてSPEEDに憧れてショウビズの世界に飛び込んだ三人の少女たちは、プロデューサーである中田ヤスタカの先鋭的なビジョンによって、一度は無個性で無機質な「ヴォーカロイド」のような存在へと改造された。
声すらも楽器の一部として扱うその手法は、アイドルの属人性を消臭し、クールなアイコンとして昇華させる大発明だった。しかし彼女たちは、雌伏の時を経て確かな表現力を身につけ、再び肉感的で感情豊かな歌声を取り戻したのだ。
KARAや少女時代といった、「容姿」「ダンス」「圧倒的な歌唱力」を高次元で兼ね備えたK-POPのガールズグループが日本のヒットチャートを席巻し、黒船のごとく猛威を振るっていた当時の状況下において、J-POPの「質と量」を保証し続けられる存在は、Perfumeをおいて他にありえなかった。
中田ヤスタカは、自らの強烈な作家性で最先端のクラブサウンドにPerfumeを染め上げてしまうこれまでの手法から一歩引き、成長した彼女たち自身の人間的な個性や、普遍的なポップスとしての強度を最大限に活かすクリエイションへと舵を切った。
無機質なサイボーグから、血の通ったミューズへ。それは、時代に対するひとつの鮮やかな解答として導き出された、日本のポップ・ミュージックのひとつの到達点だったのである。
参考文献・出典
- アーティスト/Perfume
- 発売年/2011
- レーベル/徳間ジャパンコミュニケーションズ
- ジャンル/J-POP
- プロデューサー/中田ヤスタカ
- 1. The Opening
- 2. レーザービーム
- 3. GLITTER (Album-mix)
- 4. ナチュラルに恋して
- 5. MY COLOR
- 6. 時の針
- 7. ねぇ
- 8. 微かなカオリ
- 9. 575
- 10. VOICE
- 11. 心のスポーツ
- 12. Have a Stroll
- 13. 不自然なガール
- 14. スパイス
- Perfume ~Complete Best~(2007年)
- GAME(2008年)
- ⊿(トライアングル)(2009年)
- JPN(2011年)
- LEVEL3(2013年)
![JPN/Perfume[CD]](https://popmaster.jp/wp-content/uploads/41iLRckm9PL.jpg)