ナチュラルとスーパー・ナチュラルが何の不思議もなく同居している世界
初めてビッグ・シーフを知ったのは、確か「NPR Music Tiny Desk Concert」のYoutubeを手当たり次第に漁っていた2020年の夏の時だったか。
「Tiny Desk Concert」とは、ラジオ局NPR主催ののミニ・ライヴ番組。と言っても、場所は超狭いNPR事務所の中。ミュージシャンは本棚をバックに、鮨詰め状態でパフォーマンスするのである。超一流ミュージシャンもたくさん出ているので、興味のある方は見るといいです。
んで、ビッグ・シーフ。エイドリアン・レンカーの陶酔しきったヴォーカル、肩をクネクネ動かしながらギターを弾くバック・ミークのプレイに、最初は「なんだべなーこのバンド」と思って聴いていたんだが、気付いたら彼らのドリーミーなインディー・ロックの世界に、どっぷり引きずり込まれていた。
ニューヨークのブルックリンを拠点とする彼らは、『Masterpiece』(2016年)でデビュー(タイトルの潔さよ!!)。リリースされるやいなや、インディー・フォークの新星として注目を浴びる。
翌年の2ndアルバム『Capacity』(2016年)は、Pitchforkの「Best New Music」にも選出。トラディショナルでありながら、ところどころにエクスペリメンタルなアプローチが施されたサウンド・プロダクションに、批評筋からも高い評価を得た。
周囲の期待が大きく高まる中でドロップされたのが、この3rdアルバム『U.F.O.F』。サドル・クリーク・レコーズから離れ、イギリスのインディー・レコードレーベル「4AD」からのリリースとなった。
一見イミフなタイトルは、「UFO」と「Friend」を掛け合わせた造語。それでも何のこっちゃ良く分からないが、
未知の存在と友達になる…私の歌全てがそのことについて歌っているの。
というエイドリアン・レンカーのコメントからも、ナチュラルとスーパー・ナチュラルが何の不思議もなく同居している世界観であることはわかる。
スタジオはワシントン州の森のなか、収録曲は全て一発録り。中には、レコーディングの数時間前に書かれた楽曲もあるという。精緻な音作りよりも、力強くパーソナルな響きを重視したのだ。
一聴すると、端正に紡がれた美しいトラックが陳列しているように思える。しかし、M-1『Contact』では不意に暴力的でラウドなギターが唸りをあげ、M-2『UFOF』ではコクトー・ツインズのようなドリーム・ポップが顔を覗かせ、M-12『Magic Dealer』では異界の扉を開けてしまったかのようなノイズが響き渡る。
そこに、計算や打算は見られない。トラッドな弾き語りと、エクスペリメンタルなサウンドスケープが混ざり合い、調和している。ナチュラルとスーパー・ナチュラルが同居している世界で。
そして今日も僕は、『U.F.O.F』に耳をそばたてるのだ。
- アーティスト/Big Thief
- 発売年/2019年
- レーベル/4AD
- Contact
- UFOF
- Cattails
- From
- Open Desert
- Orange
- Century
- Strange
- Betsy
- Terminal Paradise
- Jenni
- Magic Dealer
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