ハイブリッド型アーティストが仕掛けた、レトロフューチャー的サウンド
僕は純然たる文系人間で、哀しいぐらいに理数系の教科が苦手だった。高校生のとき、数学の偏差値29という学年ビリの成績をマークしてしまったこともある。
だもんで、理系の方には並々ならぬ憧憬の念を禁じ得ないのであるが、アート・シーンにときたま現れる文系+理系のハイブリッド型人間になると、もはやリスペクトすら突き抜けて畏怖の対象となり、宇宙人を眺めるような気持ちで接するしかない、という感じである。
アイ・アム・ロボット・アンド・プラウドを名乗る中国人ショウハン・リエムは、間違いなくハイブリッド型アーティストの一人だ。名門トロント王立音楽院で10年間クラシック・ピアノを学び、その後コンピューター・サイエンス科の学位を取得、’06年からエレクトロニカ・アーティストとしての活動を開始。
この簡単なプロフィールを聞いただけで、右脳系才能と左脳系才能が高次に融合している逸材であることがお分かり頂けるだろう。
ややもすると、スノビッシュで小難しい、池田亮司のようなゼロサムの二進数的サウンドを想像される御仁もいるかもしれないが、彼が紡ぎだすサウンドはあくまでハート・ウォーミング。ムームにも近似した、人肌程度の温もりが感じられるポップ・エレクトロニカだ。
自らをRobotと名乗ってはいるが、決して高性能マイクロチップが埋め込まれた最新式ヒューマノイドを気取っているのではなく、まるで手塚治虫のマンガに出てきそうな、レトロフューチャー的旧式ロボットを思わせる節がある。
過去3枚のアルバムは全て輸入版だったが、この4thアルバム『Uphill City』(2008年)は待望の国内版がリリース。意識的に音数を減らしてよりシンプルに、よりロマンティックに、そしてよりメロウな音像が浮かび上がってくる。
ただひとつ不満を言わせてもらうなら、彼の音楽には揺らぎがない。ビートは小気味いいのだがどうにも一本調子で、アルバムを通してドラマの起伏が感じられないんである。
一定すぎるテンポは、ロボットとしてのアイデンティティーゆえの計算か。だとすれば、僕はショウハン・リエムの戦略にまんまとハマったことになるんだが。
- アーティスト/I Am Robot And Proud
- 発売年/2008年
- レーベル/Darla
- Something to Write Home About
- Uphill City
- Making a Case for Magic
- Melt
- 401 Circuit
- Island Life
- Storm of the Century
- Risk
- Song for Two Wheels
- Train Station Lullaby
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