メランコリックなサウンドスケープを現出させる、透明無垢なアンビエンス
高橋幸宏は某インタビューにおいて、Sketch Show結成時に「細野さんとやるのは久しぶりだったから、最初はお互いの探りあいで、なかなか方向性が見出しにくかった」という趣旨の発言をしている。
確かに彼らのデビューアルバム『Audio Sponge』(2002年)は、軽妙なポップ・センスが心地いい、良質なラウンジ・ミュージック・アルバムに仕上がっていた。
しかし、旧YMO世代リスナーの過敏な期待をはぐらかせるアティチュード(YMOの『BGM』的アプローチとも言える)が全編を貫いてしまって、「肩の力を抜こうとしたら、逆に抜けすぎてしまった」というような印象をぬぐえなかった。
そもそも、高橋幸宏と細野晴臣がユニットを組むということが、あまりにもモニュメンタルなことなのである。
スネークマン・ショーのリメイクである、『Gokigen Ikaga 1・2・3』が収録されていることでも明らかなように、YMOという巨大な山脈に、高橋幸宏と細野晴臣があえて目を背けるかのような、過剰なはぐらかし感がアイロニカルに響いてしまう。それはやはり、必然だったのではないか。
だが、その呪縛は解き放たれた。『Loop Hole』(2003年)は、北欧系エレクトロニカとの邂逅を遂げたミニアルバム『tronika』(2003年)の延長線上にある、2枚目のフルアルバム。この作品には、50歳の齢を過ぎてなおミュージックシーンの最前線に位置し続ける、彼らの本気汁がほとばしっている。
『Audio Sponge』が、春の日差しが感じられるような穏やかな円舞曲とするなら、『Loop Hole』は、秋の気配が濃厚な協奏曲だ。メランコリックなサウンドスケープを現出させる、灰色に覆われた光景。
全編に散りばめられたグリッジノイズが、リスナーの耳を心地よく刺激し、沈みがちなトーンのなかに潜ませた“透明無垢なアンビエンス”が、原初的な記憶を呼び起こさせる。
コーネリアスの傑作アルバム『Point』(2001年)が提示した、オーガニックとエレクトロニカの融合=フォークトロニカを、幸宏+細野の二大巨頭が磨きに磨き上げた、至高の逸品。Can’t Help Falling In Love this album!
- アーティスト/Sketch Show
- 発売年/2003年
- レーベル/カッティング・エッジ
- MARS
- WIPER
- CHRONOGRAPH
- PLANKTON
- FLAKES
- ATTENTION TOKYO
- NIGHT TALKER – SAFETY SCISSORS MIX –
- TRAUM 6.6
- SCOTOMA
- FLY ME TO THE RIVER
- EKOT – CORNELIUS MIX –
- STELLA
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