口当たりの甘いスウィート&ソフトな坂本流ポップス
ハウス・ミュージックを全面的に取り入れた前作『Heart Beat』(1991年)から一転、口当たりの甘いスウィート&ソフトな坂本流ポップスが詰まったアルバム『Sweet Revenge』(1994年)は、一部ファンから「軟弱、腰抜け」と大きな批判を浴びた。
『B-2 Unit』(1980年)の全面的にダブを使った先進性、『未来派野郎』(1986年)のスポーティーなドライヴ感、『戦場のメリークリスマス』(1983年)の高等音楽理論に裏打ちされたアカデミズムなどにシビれた彼の信者たちは、教授が突然売れセンのポップ・ミュージックに舵を切ったことに対し、「裏切られた!」と怒りをあらわにしたのである。
しかし坂本龍一にとって「ポップ」とは、オリコンチャートを賑わすような、大衆迎合主義的音楽を指すものではなかった。それは、ポップをポップたらしめる最大のエレメント「メロディー」とは何かを、改めて検証・考察するにあたって、最も分かりやすいジャンル・ミュージックだったのである。
「ドリス・デイの歌うポップ・ミュージックと、スヌープ・ドギー・ドッグが歌うラップと、どちらがよりポップであるかという問題は極めて重要だ」
という彼の発言にも、それは顕著だ。
アートリンゼイ、テイトウワ、サトシトミイエ、今井美樹、高野寛、ロディフレーム(アズティックカメラ)といったゲスト・ミュージシャンを迎えて、己の高度な音楽的素養&スキルを、ポップ・ミュージックに注入。
その結果、とびっきりメロウで甘いサウンドが誕生した。メロディアスな”甘い復讐”は、何よりもまず昔ながらの保守的なファンに対して向けられたのかもしれない。
個人的にお気に入りの一曲は、叙情的なギターの音色が美しいM-13『君と僕と彼女のこと』。ロベール・アンリコのフランス映画『冒険者たち』にインスパイアされたという詩世界は、女の子+男の子+男の子の三角関係(でも少しゲイ的な関係あり)を描いている。
どこか青さを感じさせる高野寛と、ユニセックスな雰囲気を醸し出す教授のツイン・ヴォーカルは、どこか共犯者的=ゲイ的でもある。
そういや、高野寛が司会を務めていたNHK番組『ソリトン サイドB』(1995年〜)で、「坂本さんに影響されてダンベル始めちゃいました」とか「坂本さんの僕のイメージは、とにかくその男っぽいダンディズムなんです」とか、兄貴を慕ってマッチョイズムに目覚めたかのような発言を連発していたなあ。
そう考えるとこのアルバムの甘さは、ソフトなホモセクシュアリティーと通底しているような気もしてくる。あなおそろしや。
- アーティスト/坂本龍一
- 発売年/1994年
- レーベル/gut
- Tokyo Story
- Moving On
- 二人の果て
- Regret
- Pounding At My Heart
- Love And Hate
- Sweet Revenge
- Anna
- Pile of Time
- Same Dream, Same Destination
- Psychedelic Afternoon
- Interruptions
- 君と僕と彼女のこと
最近のコメント