エクスペリメンタル・ロック・スタイルで描かれる、アメリカの闇
イールズの楽曲は、どこかニューヨークを代表する画家、エドワード・ホッパーを想起させる。
モーテル、ダイナー、サンテラス…。ありふれた陳腐な情景の中に、ホッパーは不吉な影を嗅ぎとり、アメリカの都市に潜む日常の孤独を暴きだす。
特に寂しい景色を描くつもりではなかったが、無意識のうちに大都会の孤独を描いていたのかもしれない
とホッパーは述懐する。写実的なタッチに描かれる人物たちには、「生」の光を失ったかのような空虚さがにじみ出ているのだ。
イールズはアメリカの病巣をメランコリックに表現し得る、アメリカンゴシックなミュージシャンである。そこはかとなくダークサイドを標準装備しているアーティストである。
だってさ、『Daisies Of The Galaxy』(2000年)のジャケ見てごらんって。牧歌的でキュートなイラストなんだけど、よーく見るとどこか無気味。何でも50年代のギリシャの絵本から選ばれたイラストで、もともとはイールズのフロントマン・Eの母親の形見だったらしい。
よくアメリカのCMなんかで、WASP系家族がコーンフレークを美味しそうに食べてたりするアットホームな1コマがあったりするが、実は母親の暴力で子供が虐待されてたりする現実が一方にはある。
デヴィッド・リンチも、アメリカの光と影を描く作家のひとりだが、イールズはロックというジャンルでそれを鮮明に暴き出すのだ。
古臭いアコースティックなサウンドに、抑揚のないオッサンボーカル。底抜けに明るい曲があるかと思えば、ドンヨリとしたお先真っ暗ナンバーも多数用意。
フォーキーとみせかけてエレクロニカな要素もちりばめるイールズは、実にエクスペリメンタルな異能集団だ。しかし特筆すべきは、アメリカの闇を浮かび上がらせる観念的で荒涼としたリリックである。
君は死んでしまったけど、世界はまわりつづけてる
一巡りしよう 君が去ったこの世界
暗くなってきた いつもより少し早い
恋しいよ 君が去ったこの世界…
20歳を迎える前に父親と死別、バンドデビュー直後に姉が自殺、数年前に病気のため母親が逝去。Eの記憶には「死」の記憶が深く刻まれている。『Daisies Of The Galaxy』の冒頭を飾るのは、ニューオーリンズ・スタイルの葬送曲だ。
- アーティスト/Eels
- 発売年/2000年
- レーベル/DreamWorks
- Grace Kelly Blues
- Packing Blankets
- Sound of Fear
- I Like Birds
- Daisies of the Galaxy
- Flyswatter
- It’s a Motherfucker
- Estate Sale
- Tiger in My Tank
- Daisy Through Concrete
- Jeannie’s Diary
- Wooden Nickels
- Something Is Sacred
- Selective Memory
- Mr. E’s Beautiful Blues
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