2026/5/10

『耳鳴り』(2006)徹底解説|清く正しく美しい、大和撫子3ピースバンド・ロック

『耳鳴り』(2006年/チャットモンチー)
楽曲背景と意味を深掘り考察・批評・レビュー

10段階評価
6
OKAY

概要

『耳鳴り』(2006年)は、チャットモンチーが発表した記念すべきデビュー・アルバム。元SUPERCARのいしわたり淳治をプロデューサーに迎え、彼女たちの才能が世に知れ渡る契機となった。本作の核となるのは、橋本絵莉子のあどけなさと強さを併せ持つ歌声と、スリーピースという最小限の編成を最大限に活かしたタイトなバンドアンサンブル。デビュー曲「ハナノユメ」をはじめ、感情が爆発するバラード「恋愛スピリッツ」、高揚感あふれる「東京ハチミツオーケストラ」など、ライブでの定番曲が並ぶ。

受賞歴
  • 第21回日本ゴールドディスク大賞:ザ・ベスト10ニュー・アーティスト
目次

食わず嫌いを粉砕した、理知的なサウンド・プロダクション

くるりの岸田繁も、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文も、おまけにあの矢野顕子までもが激賞しまくっているという、徳島発の3ピース・バンド、チャットモンチー。

正直言って、当初の僕的にはあまり食指の動くバンドではなかった。しかし、元ミュージシャンという特異な経歴を持つ会社の同僚N氏が、「素晴らしい3ピース・ガールズバンドですよ!」と鼻息荒く力説し、半ば強制的に彼女たちのメジャー1stアルバム『耳鳴り』(2006年)を貸してきたのである。

『耳鳴り』って言われても、こちとらオッサン的には「難聴の一歩手前」みたいなネガティブなイメージしかない。まあ、「あたしたちだけの音を鼓膜に届けたい」的な初期衝動の表れですか、あーそうですか、いいっすね……くらいのローテンション。とりあえずCDプレーヤーに放り込んでみた。

ところが、意外や意外。そんなに悪くない。いや、むしろすごくいいのだ。

元SUPERCARのギタリストであるいしわたり淳治をプロデューサーに迎え、いわゆる「女の子の生理的欲求」や「ガールズバンド特有のキャピキャピ感」に寄りすぎない、極めて「理知的なサウンド・プロダクション」に仕上げていることにまず好感を持った。

オープニングを飾る痛快な8ビート・ロック「東京ハチミツオーケストラ」、タイトなドラミングと三連音のベース・ラインが爽快な「さよならGood bye」、そしてマーチ風のビートが小気味いい「ハナノユメ」。

橋本絵莉子(ギター・ボーカル)、福岡晃子(ベース・コーラス)、高橋久美子(ドラム・コーラス)の3人が鳴らす音は、最小限の編成でありながら、驚くほど骨太でバラエティーに富んでいる。

「恋愛スピリッツ」の衝撃

とはいえ、前半を聴き終えた時点では、特にスペシャルな印象を持たなかったことも事実だ。「まあ、割とウェルメイドで凡庸なオルタナ・ロックかな」と高を括っていたら、9曲目に収められている「恋愛スピリッツ」を聴いてたまげた。文字通り、身震いするほどたまげたのだ。

お世辞抜きで、この楽曲はJ-POP史上にその名を轟かせるべき大名曲である。

歌詞だけを切り取れば、「私を捨ててあのオンナをとるつもりなの、アンタ?」というような、情念が渦巻くかなりヘヴィーなリリックだ。しかし、シンプルながらも劇的に展開していくコード進行と、橋本絵莉子の伸びやかでヒリヒリとした歌声が、リスナーの心臓を一直線に貫く。

ガールズバンドという枠組みを完全に凌駕した、途方もなく壮大でエモーショナルなロック・バラードなんである。間違いなく、この才能は本物だ。

地声が空間を切り裂く瞬間

そして2007年7月7日の七夕。僕は、日比谷野外大音楽堂で行われた彼女たちのワンマン・ライヴ「七夕ライヴ~天まで響け!!~」を観に行った。

会場はティーンエイジのボーイズ&ガールズで埋め尽くされており、僕のようなオッサンがポツンと混じっているのは多少気が引けた。しかし、まるで大学の文化祭の延長線上にあるような、手作り感と熱気に満ちたライヴの雰囲気にすっかり魅了され、いつしか僕も学生に戻ったような気分で純粋に音楽を楽しんでいた。

やがてライヴも中盤を迎える頃、伝説的な瞬間が訪れる。橋本絵莉子が突然マイクからスッと離れ、何と地声のアカペラで「恋愛スピリッツ」のイントロを歌い出したのである!

ヴォーカリストとしての絶対的な力量と、自身の喉への自信がなければ、野外の巨大な空間で到底やれるはずのない芸当だ。普段のMCでは『ちびまる子ちゃん』のモノマネを得意とするような可愛らしいアニメ声なのに、ひとたび歌い出せば、その最大出力は野音の隅々の空気をビリビリと震わせながら響き渡った。あの瞬間の静寂と鳥肌は、今でも鮮明に思い出すことができる。

このバンドの真骨頂は、元気のいいパワーポップではなく、こうした情念を乗せた壮大なバラード・ナンバーにあると、ここに宣言しておこう。まあ、僕が宣言したからって別に何がどうなるってこともないんだが。

ちなみに本作のジャケットデザイン、イギリスの3人組ロックバンド、リトル・バーリーのアルバム『We Are Little Barrie』(2005年)のジャケットにそっくり、というのは一部の音楽ファンの間では有名な話だ。

どちらもメンバー3人の顔のアップが縦(または横)に並べられた構図。オマージュなのか偶然なのかは定かではないが、耳鳴りどころか、めまいを起こしそうになるくらいに激似でちょっとコワい……。

アルバム情報
プレイリスト
  1. 1. 東京ハチミツオーケストラ
  2. 2. さよならGood bye
  3. 3. ウィークエンドのまぼろし
  4. 4. ハナノユメ(ALBUM Mix)
  5. 5. どなる、でんわ、どしゃぶり
  6. 6. 一等星になれなかった君へ
  7. 7. おとぎの国の君
  8. 8. 恋の煙(ALBUM Mix)
  9. 9. 恋愛スピリッツ
  10. 10. 終わりなきBGM
  11. 11. プラズマ
  12. 12. メッセージ
  13. 13. ひとりだけ
チャットモンチー アルバムレビュー