清く正しく美しい、大和撫子3ピースバンド・ロック
くるりの岸田繁も、アジカンのゴッチンも、おまけに矢野顕子までもが激賞しまくっているチャットモンチーであります。
正直言って、僕的にはあまり食指の動くバンドではなかったんだが、元ミュージシャンという特異な経歴を持つ会社同僚のN氏が「素晴らしい3ピース・ガールズバンドですよ!」と鼻息荒く力説し、半ば強制的にアルバム『耳鳴り』(2006年)を借りさせられたのである。
耳鳴りって言われても、オッサン的には難聴手前みたいなイメージしかないが、やっぱコレって「あたしたちだけの音を届けたい」的なコトですか、あーそうですか、いいっすね、くらいのローテンション。まあとりあえず聴いてみた。
意外に、そんなに悪くない。いや、むしろいい。元・SUPERCARのいしわたり淳治氏をプロデューサーに迎え、女性の生理的欲求に寄りすぎない「理知的なサウンド・プロダクション」に仕上げていることにまず好感。
オープニングを飾る痛快な8ビート・ロック・ナンバー『東京ハチミツオーケストラ』、タイトなドラミングと三連音のベース・ラインが爽快な『さよならGood bye』、マーチ風のビートが小気味いい『ハナノユメ』と、楽曲もバラエティーに富んでいる。
とはいえ特にスペシャルな印象を持たなかったことも事実で、まあ割と凡庸なアルバムかなーと思っていたら、9曲目に収められている『恋愛スピリッツ』を聴いてたまげた。身震いするほどたまげた。お世辞ではなく、この楽曲はJ-POP史上にその名を轟かせるべき大名曲である。
歌詞だけをとれば、「私を捨ててあのオンナをとるつもりなの、アンタ?」というような、かなりストーカーちっくなリリック。
しかし、シンプルながらもドラマティックなコード進行と、ヴォーカル&ギターを務めるえっちゃん(橋本絵莉子)の伸びやかな歌声がリスナーのハートに突き刺さる、壮大なバラードなんである。間違いなく、この才能は本物だ。
そして2007年7月7日の七夕。僕は、日比谷野外音楽堂で行われた、彼女たちのワンマン・ライヴを観に行った。
ティーンエイジのボーイズ&ガールズが会場を埋め尽くすなか、僕のようなオッサンが混じっているのは多少気が引けたが、まるで大学の文化祭のように手作り感に満ちたライヴの雰囲気に魅了され、僕も学生に戻ったような気分で音楽を楽しむことができた。
やがてライヴも中盤を迎える頃になると、えっちゃんは突然マイクから離れ、何と地声で『恋愛スピリッツ』イントロを歌いだしたのである!ヴォーカリストとしての力量に絶対の自信がなければ、到底やることができない芸当だ。
ちびまる子ちゃんの物まねを得意とするアニメ声ながらも、その最大出力は野音の隅々にまで響き渡る。
このバンドの真骨頂は、元気のいいパワーポップではなく、壮大なバラード・ナンバーにあることを宣言しよう。僕が宣言したからって、別に何がどーなるってこともないんだが。
ちなみに本作のジャケット、イギリスの3人組ロックバンドLittle Barrieの『We Are Little Barrie』(2005)のジャケットそっくり、というのは有名な話。耳鳴りどころか、めまいをおこしそうなくらいに激似でコワい…。
- アーティスト/チャットモンチー
- 発売年/2006年
- レーベル/東芝EMI
- 東京ハチミツオーケストラ
- さよならGood bye
- ウィークエンドのまぼろし
- ハナノユメ(ALBUM Mix)
- どなる、でんわ、どしゃぶり
- 一等星になれなかった君へ
- おとぎの国の君
- 恋の煙(ALBUM Mix)
- 恋愛スピリッツ
- 終わりなきBGM
- プラズマ
- メッセージ
- ひとりだけ
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