無菌室から抜け出してきたかのような透明感あふれる、イノセントワールド
坂本龍一と中谷美紀の関係って、ジェーン・バーキンをフレンチ・ポップのクイーンに仕立て上げた、セルジュ・ゲンズブールと似ている気がする。
オンナ好きな教授が、その才能を傾けて紡ぎ上げたのが、端正なジャパニーズ・ドール中谷美紀。“アーティスティックな、カリスマ女優”として売りだしたかった中谷サイドにとっても、元「桜っ子クラブ」などというオゾマシイ過去を払拭する、いい機会になったことは間違いない。
彼女のヴォーカルは、無菌室から抜け出してきたかのような透明感にあふれ、一切の虚飾がない。教授は、同性からも人気が高いというユニセックスな一面を引き出し、一人称を「ぼく」に、その眼差しは世界へといきわたるかのような、イノセントワールドを構築した。
多分、坂本龍一は彼女に安易なラブソングなんか歌って欲しくないんだろう。生活感まる出しのチープな歌謡曲なんて、もってのほか。
ジャン・リュック・ゴダールの、アンナ・カリーナに対する憧憬が結実したのが『女は女である』(1961年)とするなら、坂本龍一の中谷美紀に対する憧憬が結実したのが、ファーストアルバムの『食物連鎖』(1996年)だ。
そういえば『ストレンジ・パラダイス』という曲には、「『ゴダールのマリア』をレイトショーでみてた」なんて歌詞が出てきたりする。
教授にとって、「女は女である」存在が中谷美紀なんだろう。問題は、同系統のイノセントさをフューチャーしている実娘の坂本美雨とカチ合わないかどうかだ。
カヒミ・カリィなどフレンチなお友達も多い美紀ちゃんが、彼の手を離れて独自に音楽活動する日もそう遠くないんではないか。世界の教授はその日が来ないことを祈りながら、今日も端正なポップスを彼女に捧げ続ける。
- アーティスト/中谷美紀
- 発売年/1996年
- レーベル/フォーライフミュージックエンタテインメント
- マインド・サーカス
- ストレンジ・パラダイス(パラダイス・ミックス)
- 逢いびきの森で
- 汚れた脚~ザ・サイレンス・オブ・イノセンス
- マイ・ベスト・オブ・ラヴ
- ホェア・ザ・リヴァー・フロウズ
- タトゥー
- 色彩の中へ
- ルナ・フィーヴァー
- sorriso escuro
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