Romantic Warrior/Return To Forever リターン・トゥ・フォーエヴァー

プログレ・サウンドが津波のように押し寄せる、超絶技巧のフュージョン・ジャズ

別に僕は正統的かつ保守的なジャズ・ファンをきどる訳でもないし、ご大層な一家言がある訳でもない。

そもそもジャズに関して深い知識があるわけでもない、しかしながら、どーしてもエレクトリック・ジャズ、すなわちフュージョンをジャズとして認めることができなかった。

マイルス・デイビスの『Bitches Brew』(1970年)を聴いた時、そのあまりの天外魔境ぶりに、強烈な拒絶反応を示してしまったのだ。

BITCHES BREW
『Bitches Brew』(マイルス・デイビス)

16ビートのリズムから繰り出される呪術的なサウンド。いかんともしがたいほど生理的に全く受け入れられず、以降はほとんどフュージョン・ジャズを耳にしておりません。

にも関わらず、その『Bitches Brew』にも参加したピアニスト、チック・コリアが1971年に結成したバンド、リターン・トゥ・フォーエヴァーが発表した『Romantic Warrior』(1976年)は、僕にとって重要な位置を占めるアルバムになっている。

スペーシーなシンセサイザー、超絶技巧のエレキ・ギター、ファンキーなビートを刻むドラムがアンサンブルとなって、プログレ・サウンドが津波のように押し寄せる、フュージョン・ジャズの代表的作品だ。

フュージョンには苦い思い出がある僕が、例外的にこのアルバムを愛聴している理由はただひとつ。島田壮司の傑作ミステリー小説『異邦の騎士』(1988年)のモチーフとなっている作品だからだ。

異邦の騎士 改訂完全版
『異邦の騎士』(島田壮司)

確か大学時代に友人のT氏(変態)が、「島田壮司はイイ!今すぐ読め!」と半強制的に『占星術殺人事件』(1981年)を勧めてくれたのがきっかけだったと思うんだが、その後はオナニーを覚えた猿のごとく島田壮司にハマりまくり、一心不乱に彼の作品を追いかけていった。

特にファンからの熱い支持を受けている『異邦の騎士』は、本格ミステリーというよりはホロ苦い青春小説と称すべき作品で、その文章の端々に、ユースフルデイズ特有の不安・痛みが刻印されている。

リターン・トゥ・フォーエヴァーの音楽を聴くことは、いつも強烈な刺激だった。
たった数十分で、エネルギーのバッテリィを瞬間チャージされる気分だった。

人間技でないような曲芸的プレイを、世界一流のミュージシァンが、徹底した練習を経てアンサンブルで達成する。彼らの驚異的な演奏スピードが、ジャスト・ミートして繰り広げられる。それらはまさしくもう二度と聴けない奇跡の音楽のように思われ、チックのこの完全主義にはいつも頭が下がった。

世界にはこれほど真面目に、真剣に仕事をする奴がいる、とても遊んでられない、彼の音楽を聴くたび、そう思った。

コレは島田壮司が『異邦の騎士』のあとがきに寄せた文章だが、大学を中退して特に夢も希望もないまま人生を浪費していた当時の僕自身も、このアルバムにはおおいに励まされた。

島田も言及しているが、アルバムタイトル・ナンバーであるM-3『Romantic Warrior』は、電気楽器をいっさい使用していない。

ディストーションで音を厚くさせることもせず、生身の楽器ひとつだけで、彼らはさらなる高みへ向かおうとしているのがよく分かった。「俺も早くこんな生活から抜け出さなくては」と気持ちを奮い立たせた。

間違いなく、己が辿ってきた人生と不可分な音楽というものが、この世には存在する。少なくとも僕にとってリターン・トゥ・フォーエヴァーの『Romantic Warrior』は、そのような作品だ。だからこのアルバムを語ることは、自分自身を語ることと同義でもある。

それが、音楽というものが持つ効用のひとつであると、僕は考える。

DATA
  • アーティスト/Return To Forever
  • 発売年/1976年
  • レーベル/Columbia
PLAY LIST
  1. Medieval Overture
  2. Sorceress
  3. Romantic Warrior
  4. Majestic Dance
  5. Magician
  6. Duel of the Jester and the Tyrant, Pts. 1 & 2

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