Aphex Twinが無秩序に暴れまくる、知的かつ恥的なサウンド・プロダクション
無邪気に狂っているというか、無秩序に暴れているというか、超高速ビートに牧歌的メロディーかつテイストは変態的という、もはや黙って跪いて聴くしかないというアルバム。
ジャケからして、『シャイニング』(1980年)のジャック・ニコルソンとタメ張れるほどに不気味なエイフェックス・ツイン(リチャード・D・ジェームス)本人の顔のどアップなのだが、その笑顔は生半可なテクノ・リスナーを容易に寄せ付けない。
一般的なリスナーと同じく、僕も『Selected Ambient Works 85-92』(1992年)や、『Selected Ambient Works Vol 2』(1994年)で初めてエイフェックス・ツインの音楽に邂逅したクチである。
幻想的で、神秘的なアンビエント・ミュージックにすっかり浸っていた耳には、『Richard D James Album』のアクの強すぎるサウンドは、正直好きになれなかった。
そもそも、この常識を逸したBPMのブレイクビーツは何なのだ!!!32ビートのドラムンベースといった生易しいものではなく、いきあたりばったり式にキックが刻まれるというような、投げやりで無茶苦茶なリズム。
それでいてメロディーは、意外に美メロだったりするものだから、何が何だか訳が分からないことこの上なし!
超高速ドラムンベースが永々に続くと思いきや、一転してM-7『Goon Gumpas』ではドラムレスのエレジーなトラックをご披露(この楽曲が「『Selected Ambient Works』に一番近いサウンドかもしれない)。
グリッジ・ノイズが気持ちいいM-8『Yellow Calx』、カートゥーンのBGMのようなM-10『Logon Rock Witch』をコンパイルするなど、Aphex Twinは相も変わらずバラエティーに富んだ、アイディアの豊富さを見せつける。とにもかくにも押しの強い、天外魔境的な(?)アルバムなのだ。
16歳まで自分の作曲した音楽しか聴いたことがなかったとか、Sireレーベルとの高額な契約金で戦車を購入したとか、ライブで自分のCDをそのままかけたとか、虚言癖が多いエイフェックス・ツインだが、独特のねじれたユーモア・センスが溢れまくったこのアルバムこそ、彼の最大の虚言、いや、虚作なのかもしれない。
そもそも、自分の名前に「アルバム」というワードを付け足しただけの、『Richard D James Album』というタイトルからふざけているじゃありませんか。日本のレコード会社のディレクターが、名前を聞いてすっかり仮タイトルだと思い込んだエピソードがあるのだが、さもありなん。
知的かつ恥的なサウンド・プロダクションが、このアルバムには詰まっている。
- アーティスト/Aphex Twin
- 発売年/1997年
- レーベル/Warp
- 4
- Cornish Acid
- Peek 824545201
- Fingerbibb
- Corn Mouth
- To Cure A Weakling Child
- Goon Gumpas
- Yellow Calx
- Girl Boy Song
- Logon Rock Witch
- Milkman
- Inkey$
- Girl/Boy (18£ Snare Rush Remix)
- Beetles
- Girl/Boy (Redruth Remix)
最近のコメント