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Random Access Memories/ダフト・パンク

『Random Access Memories』──ダフト・パンクが切り開いた新しい音楽の地平

『Random Access Memories』(2013年)は、ダフト・パンクが結成20周年の節目に発表したスタジオアルバムで、ゲストとしてナイル・ロジャース、ポール・ウィリアムズ、ジョルジオ・モロダー、トッド・エドワーズ、パンダ・ベアらが参加した作品である。アルバムには「Give Life Back To Music」、「The Game of Love」、「Giorgio by Moroder」、「Touch」などが収録され、ディスコやソフトロックを含む複数の音楽的背景が取り入れられた。2014年の第56回グラミー賞ではアルバム・オブ・ザ・イヤーを含む複数部門を受賞し、各国のチャートで1位を獲得した。

“再発明の跳躍”──2010年代の音を更新した帰還作

前作『Human After All』(2005年)から8年。沈黙を破ってリリースされた『Random Access Memories』は、ダフト・パンク結成20周年という節目に投じられた、きわめて大きな “宣言” のような作品だった。

第56回グラミー賞でアルバム・オブ・ザ・イヤーを含む5冠を獲得し、20か国以上でチャート1位を飾ったことは、単なる商業的成功ではなく、「2010年代の音楽とは何であったか?」という問いへの決定的な回答を突き付けた出来事でもある。

『Homework』(1997年)と『Discovery』(2001年)が示した、フレンチ・タッチの推進力。アナログ・サンプルと未来志向のパルスがせめぎ合う“90年代的クラブ以後”の美学。だが彼らはこの一作で、その自己文法そのものを脱ぎ捨てた。

要するに、「過去の再発明」そのものを未来化する、という大胆な跳躍をやってのけたのだ。

DISCOVERY
ダフト・パンク

“レトロなのに未来的”──70年代西海岸サウンドの倒錯

『Random Access Memories』で最も鮮明なのは、“レトロなのに未来的”という倒錯したサウンドの質感だ。ディスコ、ソフトロック、メロウ・ファンク、AOR、ウェストコースト的ハーモニー。つまり70年代の空気感を一気に現代へ引き戻す力学である。

グラミー受賞エンジニア、ミック・グゾウスキーが語るところによれば、録音時の基本姿勢は徹底した“ナチュラル志向”。コンプレッションは最低限。録音はアナログテープを通し、そこからPro Toolsへ落とす。

そのうえで、彼はミックス段階でも2ミックスを過度に叩き潰さず、クラシックな1176やLA-2Aといったコンプレッサーを「音色づけ」のためだけに控えめに使う。いわゆるラウドネス・ウォー的な発想とは真逆の、“ダイナミクスを残すための”設計思想が、アルバム全体に貫かれている。

同時に、ダフト・パンクのふたりは、巨大スタジオに一流プレイヤーを集めて録るという、現在ではほとんど失われかけたプロセスそのものを再演しようとしている。

自宅でノートPCひとつあれば、いくらでも打ち込みだけでトラックを量産できる時代に、あえて大きな部屋の空気感、ドラムの「鳴り」、ミュージシャン同士の呼吸をテープに焼き付ける。

そこには、機材フェチ以上に「アルバムをつくるという儀式」をまるごと再現したいという欲望が透けて見える。現在ではむしろ異端的な手法だが、まさにそれゆえに“ヴィンテージが未来を再定義する”という倒錯が生まれた。

デジタル音源の上から“ヴィンテージ風プラグイン”を載せるのではなく、最初から「人間と空気」を録ってしまう。そうすることで、ストリーミング時代の標準音圧に慣れた耳には少し物足りないくらいの余白とレンジが生まれ、その“静けさ”が逆説的に未来的な聴感を呼び込んでいる。

この作品が示したのは、「デジタル高速化の世界で、あえてフィジカルな音像だけが持つ肌理を取り戻すこと」。それは回顧ではなく、“過去の霊性”を素材として再構築する試みだった。

70年代のスタジオとミュージシャンへの憧憬を、21世紀のテクノロジーと編集感覚で再配列する──そのねじれた構図こそが、『Random Access Memories』というアルバムを、“レトロ”でも“フューチャー”でもなく、そのどちらでもある第三の場所へと押し上げている。

アンサンブルの極点──13曲が描く“人間の匂い”

アルバムのオープニングを飾るのは、M-1『Give Life Back To Music』。浮遊感のあるイントロから、カッティング・ギターがリズムを刻む展開がとっても’70年代ソウルなり。ちなみにギターを演奏しているのは、かのナイル・ロジャース!

続くM-2『The Game of Love』は、フェンダー・ローズのような響きのピアノが印象的。ちょっと引っ掛けたようなガシャガシャとしたギター、ドラムのブラシワークも気持ちい。

そしてM-3『Giorgio By Moroder』は、文字どおりジョルジオ・モロダーへのトリビュート・ナンバー。彼自身のモノローグに乗せて、スペーシーなレトロ・フューチャー・サウンドが鳴り響く。…と、13曲ぶん精緻に計算されたプロダクションを楽しめる。

M-6『Touch』はポール・ウィリアムズ(ダフト・パンクの二人は、映画『ファントム・オブ・パラダイス』以来彼のファンなんだそうな)、M-11『Fragments of Time』はトッド・エドワーズ、M-12『Doin’it Right』はパンダ・ベアと、ゲスト・ミュージシャンもゴキゲンな連中ばかりなり。

こんなアルバムが作れるのは、ダフト・パンクが泣く子も黙るビッグ・アーティストで、お金も時間もたっぷり製作にかけられたから。いつものことながら、『Random Access Memories』には彼らの本気汁がほとばしっている。

DATA
  • アーティスト/ダフト・パンク
  • 発売年/2013年
  • レーベル/Daft Life
PLAY LIST
  1. Give Life Back to Music
  2. The Game of Love
  3. Giorgio by Moroder
  4. Within
  5. Instant Crush(feat. ジュリアン・カサブランカス)
  6. Lose Yourself to Dance(feat. ファレル・ウィリアムス)
  7. Touch(feat. ポール・ウィリアムズ)
  8. Get Lucky(feat. ポール・ウィリアムズ)
  9. Beyond
  10. Motherboard
  11. Fragments of Time(feat. トッド・エドワーズ)
  12. Doin’ It Right(feat. パンダ・ベア)
  13. Contact
  14. Horizon