プロテスト・ソングとしての意匠をまといながらも、ソランジュのパーソナルな想いが込められた一枚
Destiny’s Child時代から現在に至るまで、ビヨンセは完全無欠なスーパースターとして君臨してきた。
アッパーでパワフルなR&Bサウンドは、ややもすれば少しいなたい、オーセンティックな音楽にも聴こえてしまうきらいはあったが、それ故に彼女は絶大なるポピュラリティーを獲得してきたんである。
だが、6thアルバムとなる『Lemonade』(2016年)において、ビヨンセはトレンドセッターとしての先鋭的なサウンドを鳴らし始めた。
The Weeknd、ジャック・ホワイト、ジェイムス・ブレイク、ケンドリック・ラマーなど、各界から“イケてる”アーティストたちを召喚して、自らが絶対的クイーンであることを改めて証明してみせたんである。
そして同時に『Lemonade』は、Black Lives Matterのムーヴメントに呼応して、黒人女性としての誇りを高らかに歌い上げたプロテスト・ミュージックでもあった。
ビヨンセはもはや単なるディーヴァではなく、ポリティカルなメッセージを叩きつける“闘士”となったのである(スーパーボウルのハーフタイムショーで、彼女がブラックパンサー党のトレードマークでもある“黒いベレー帽”をかぶってパフォーマンスをしたことは、記憶に新しい)。
そして、同じ2016年。ビヨンセの妹ソランジュが、3rdアルバム『A Seat at the Table』(2016年)をリリースする。
圧倒的知名度を誇る姉と比べて、ソランジュは常に陰のような存在だった。キャリアの初期には、ティンバーランド系のファンク・ミュージックを歌っていたが、批評的にも興行的にも、ビヨンセとは同列で語られることはなかったように思う。
だが、しかし。『A Seat at the Table』は、間違いなく『Lemonade』をも上回る名盤である(断言)。その証拠に、音楽メディアの「NPR Music」は年間ベストでビヨンセを2位、ソランジュを1位に選出しているのだ。
ちなみにローリングストーン誌は、ビヨンセを1位に、ソランジュを11位にしていたが、笑止千万!筆者は断然妹のソランジュ推しであります。
『A Seat at the Table』の共同プロデューサーを務めたのは、ラファエル・サーディク。若くしてその才能をプリンスに認められ、メイシー・グレイ、ディアンジェロ、ザ・ルーツ、スヌープ・ドッグといった錚々たるアーティストに曲を提供した才人だ。
ラファエル・サーディクとソランジュは、ネオソウルの文脈にのっとりながらも、エレクトロ・ミュージックやスムーズ・ジャズのスパイスを絶妙にブレンドし、内省的なサウンド・プロダクションを紡ぎあげている。
このアプローチは、『Lemonade』とは非常に対照的。姉が足し算の美学でマッシヴな音像を創り上げたとするなら、妹は引き算の美学。極限まで音数を減らすことで、クール&チルなテクスチャーを追求している。
ソランジュのヴォーカルも、ビヨンセのディーバ系熱唱とは異なり、あくまでトラックのなかで慎ましやかに溶け込んでいる。
ソランジュはこのアルバム制作にあたって、ルイジアナ州ニューイベリアで録音作業を行なった。この地で彼女の両親は出会い、やがて都会に出るものの、激しい人種差別によって再び戻ってきたという。
自分自身のルーツを、黒人たちがアメリカで味わってきた苦闘の歴史と重ね合わせる、という行為。『A Seat at the Table』は、『Lemonade』と同じくプロテスト・ソングとしての意匠をまといながらも、よりパーソナルな想いが込められた一枚となっている。
- アーティスト/Solange
- 発売年/2016年
- レーベル/Saint Records
- Rise
- Weary
- Glory Is in You, The (Interlude) featuring Master P
- Cranes in the Sky
- Dad Was Mad (Interlude) featuring Mathew Knowles
- Mad
- Don’t You Wait
- Tina Taught Me ( Interlude) featuring Tina Knowles
- Don’t Touch My Hair featuring Sampha
- This Moment (Interlude) featuring Devonte Hynes/Sampha/Master P/Kelsey Lu)
- Where Do We Go
- For Us by Us (Interlude)featuring Master P
- F.U.B.U. featuring The Dream/BJ the Chicago Kid
- Borderline (An Ode to Self Care)
- Got So Much Magic, You Can Have It (Interlude) featuring Nia Andrews/Kelly Rowland
- Junie
- No Limits (Interlude) featuring Master P
- Don’t Wish Me Well
- Pedestals (Interlude)
- Scales featuring Kelela
- Closing: The Chosen Ones
最近のコメント